普段着としての着物選びのすすめ
福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
「着物は特別な日のもの」――そう思っている方は少なくありません。たしかに、結婚式やお茶会などの改まった場で着る着物は格式があり、非日常を演出してくれるものです。しかし、着物は本来、私たちの暮らしの中に寄り添ってきた“日常の衣”でもありました。現代では洋服が主流になったために、いつの間にか「着物=ハレの日の装い」というイメージが定着しましたが、実は少し工夫をすれば、着物はもっと気軽に楽しめるものなのです。

着物に興味はあるけれど、「着るのが大変そう」「高そう」「汚したらどうしよう」と感じている方も多いでしょう。確かに、絹の訪問着や付け下げなどのフォーマルな着物は、取り扱いに注意が必要です。しかし、普段着として楽しむのであれば、もっと手軽で扱いやすい素材を選ぶことで、その心配はぐんと減ります。日常の中で気軽に着られる着物を見つけることができれば、「特別なときだけの装い」から「自分らしい暮らしの一部」へと変わっていくのです。
まず、普段着としておすすめしたいのは「洗える着物」です。洗える着物とは、その名の通り自宅でお洗濯ができる素材の着物のこと。多くはポリエステルや綿、麻などで作られており、汚れを気にせず気軽に着られるのが魅力です。食事の場やお出かけ先でうっかり汚してしまっても、家庭でお手入れできるので安心。特に初心者の方や、まだ着物に慣れていない方にとっては、扱いやすさが大きなポイントです。
ポリエステル素材の着物は、軽くてシワになりにくく、雨の日にも気兼ねなく着ることができます。現代の技術では、絹のような光沢や風合いを持つ高品質なポリエステルも多く、見た目にも十分美しい仕上がりです。お稽古やちょっとしたお出かけにも最適で、季節ごとに柄や色を変えて楽しむのもおすすめです。
一方、もう少し上品な風合いを求めるなら、「交織(こうしょく)」の着物も良い選択です。交織とは、絹と化学繊維を混ぜて織られた生地のこと。絹の美しい光沢を残しながらも、ポリエステルの強さや扱いやすさを兼ね備えており、「見た目は上質、扱いは手軽」という良いとこ取りの素材です。ちょっとした食事会や観劇など、少し改まった外出にも対応できます。
また、夏場には「麻の着物」や「綿麻素材」もおすすめです。麻は通気性が良く、肌触りも爽やかで、暑い季節にぴったり。さらりとした質感が心地よく、見た目にも涼しげな印象を与えます。カジュアルな場での散歩や、友人とのランチなどに最適で、洋服感覚で着こなせるのが魅力です。
素材選びの次に大切なのは、「色柄とコーディネート」です。普段着の着物は、季節感を意識しながらも、日常の中で自然に馴染む色や柄を選ぶのがおすすめです。たとえば、春には淡い桜色や若草色、夏には藍や白、秋には紅葉を思わせるこっくりとした色味、冬には落ち着いた灰桜や墨色など、季節を映す色を選ぶと、装いにも温かみが生まれます。
柄物を選ぶ際は、大きな文様よりも小紋柄や縞、格子などの控えめなものを選ぶと、普段着として取り入れやすくなります。帯や帯締めとの組み合わせで雰囲気が変わるため、その日の気分や出かける場所に合わせてアレンジする楽しみも広がります。
普段着としての着物を楽しむ際に意識したいのが、「完璧を求めないこと」です。洋服と同じように、少しのシワや着崩れも“味”と考えて大丈夫。かつての日本の女性たちは、日々の暮らしの中で自然に着物を着こなし、動きながら美しさを保っていました。現代でも、気負わず着ることが“粋”であり、自然体の美しさにつながります。
また、普段着の着物には「身軽さ」も大切です。たとえば、名古屋帯の代わりに半幅帯を使えば、結び方も簡単で軽やか。帯結びをアレンジすれば、可愛らしくも粋にも仕上がります。動きやすさを重視するなら、木綿の着物やデニム着物などもおすすめです。最近では、洋服感覚で楽しめるモダンな柄やデザインのものも増えており、カフェ巡りや美術館デートなどにもぴったりです。
着物を普段着として取り入れると、日常に小さな特別感が生まれます。たとえば、いつもの散歩道も、着物姿で歩くだけで景色が違って見えたり、姿勢が自然と整ったりします。帯を締めると背筋が伸び、所作も丁寧になり、自分自身と向き合う時間が増えるように感じるでしょう。
そして何より、着物を着ることで「自分を大切にする時間」が増えます。どんな素材を選ぶか、どんな色にするか、どんな帯を合わせるか――その一つひとつの選択が、心の豊かさを育んでくれます。
着物は決して「特別な人だけのもの」ではありません。素材や場面を選べば、誰でも気軽に楽しむことができる装いです。自分のライフスタイルに合った着物を見つけ、無理なく日常に取り入れることで、暮らしが少しずつ豊かに変わっていきます。
「今日は洋服の代わりに、着物を着てみよう」――そんな軽やかな気持ちで袖を通してみてください。最初の一歩は少し勇気がいるかもしれませんが、その一歩が、新しい自分との出会いにつながります。普段着としての着物は、日常に彩りを添える小さな贅沢。自分らしく心地よい着物時間を、ぜひ楽しんでみましょう。


