着崩れを防ぐための着付けの基本
福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
着物を美しく着こなすために欠かせない要素のひとつが「土台作り」です。着崩れを防ぐための秘訣を尋ねられたとき、真っ先に挙げたいのがこの「土台の大切さ」。これは、まるで積み木を積み上げる作業に似ています。どんなに早く高く積み上げようとしても、下の土台がしっかりしていなければ、上へ行くほど不安定になり、やがて崩れてしまいます。着物の着付けも、まさにそれと同じです。上に重ねるものがどれほど整っていても、基礎が不十分であればすぐに崩れ、せっかくの着姿が乱れてしまいます。
着物における「土台」とは、具体的には**補整(ほせい)と長襦袢(ながじゅばん)**のことを指します。この二つがきちんと整っているかどうかで、その後の着付けの仕上がりが大きく変わります。
■ 補整が整うと着姿が変わる
補整とは、身体の凹凸を整えて着物が滑らかにのるようにすることです。特に着物は平面的な布を立体的な身体に沿わせて着るため、西洋服のように立体裁断されていません。したがって、補整が不十分だと着物の布がシワになったり、帯の位置が下がったり、衿元が浮いたりといった着崩れの原因になります。
理想的な着姿は、胸から腰にかけてなだらかなラインを描くこと。タオルや専用の補整パッドなどを用いて、身体のくぼみを軽く埋めてあげることで、全体のバランスが整い、着物が身体にぴったりと沿うようになります。補整が整っていると、見た目が美しくなるだけでなく、動いたときにも衣紋が詰まったり、裾が乱れたりしにくくなります。
また、補整は単に「見た目を良くするためのもの」ではなく、「着心地を安定させるためのもの」でもあります。適切な補整をしておくことで、着物がずれにくくなり、長時間着ていても苦しくありません。結果として、姿勢も自然と整い、凛とした印象を与えます。
■ 長襦袢が決まると着姿が締まる
もうひとつの重要な要素が「長襦袢」です。着物の下に着るこの一枚は、外からはほとんど見えない存在ですが、実は全体の印象を左右する大切な役割を担っています。衿元の角度や衣紋の抜け具合、袖丈や裾の長さなど、着物姿の美しさの決め手は、長襦袢の着方でほとんどが決まるといっても過言ではありません。
長襦袢を着るときに気をつけたいのは、「衿を左右対称に整えること」と「衣紋の抜けを程よく取ること」。この二点が乱れていると、上に重ねた着物の衿も歪んでしまい、全体が落ち着きません。特に衿合わせの部分は、顔まわりの印象を大きく左右するため、少しのズレでも印象が変わります。
さらに、長襦袢の着丈が合っていないと、裾がもたついたり、歩くたびにずり上がったりする原因にもなります。自分の身長や体型に合った長襦袢を選び、丁寧に着ることが、結果として着物を美しく見せる近道になるのです。
■ 「急がば回れ」の精神で
多くの方が着付けの際にやってしまいがちなことは、「早く着物を着たい」「帯を綺麗に結びたい」と、つい先を急いでしまうことです。しかし、どんなに丁寧に帯を整えても、土台となる補整や長襦袢がきちんとできていなければ、着崩れは避けられません。結局、何度も直すことになり、かえって時間がかかってしまいます。
ですから、着物を着る際は「急がば回れ」の気持ちで、まずは土台作りにしっかり時間をかけましょう。たとえ少し遠回りに感じても、最初に手を抜かないことで、その後が驚くほどスムーズになります。土台が整えば、着物は自然に身体に沿い、帯も位置を保ちやすく、衿元もすっきりと安定します。
特に慣れないうちは、「補整・長襦袢・着物・帯」という順番を大切にし、それぞれの工程で鏡を見ながら整える習慣をつけると良いでしょう。焦らず、一つ一つの動作を確認しながら着ていくことで、着物全体がバランスよく仕上がります。
■ 土台が整うと心まで整う
不思議なことに、土台がしっかり整った着付けは、見た目だけでなく、気持ちまで落ち着かせてくれます。衿元が乱れず、帯が下がらず、姿勢がすっと伸びていると、それだけで気分も引き締まり、自信が湧いてきます。
逆に、どこか着崩れていたり、帯が苦しかったりすると、知らず知らずのうちに気持ちまでそわそわしてしまうものです。着物姿の安定は、心の安定にもつながっているのかもしれません。
土台が整っていると、身体にぴったりと着物がなじみ、まるで自分の一部のように自然に動けます。その心地よさが、着物をもっと楽しむ原動力になります。「着物は苦しい」「すぐに崩れる」と感じていた方も、土台を見直すだけで、その印象が大きく変わるはずです。
美しい着姿をつくるためには、派手な帯結びや高価な着物よりも、まず「土台の丁寧さ」が何よりも大切です。補整で身体のラインを整え、長襦袢で全体のバランスを整える。たったそれだけのことが、着物の安定感を生み、あなたの魅力をいっそう引き立てます。
「急がば回れ」。この言葉を胸に、焦らず、丁寧に土台を整えてみましょう。きっと、これまで以上に着物を心地よく楽しめるはずです。見た目も気持ちも整った着姿こそが、真の美しさと品格を宿すのです。



