着物に込められた「折り目正しさ」の美学

着物着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

 

 

「折り目正しい」という言葉には、どこか日本らしい美しさが感じられます。

一般的には、礼儀正しく、きちんとした態度や身だしなみを表す言葉として使われていますが、実はこの言葉は着物とも深い関わりがあります。

着物の世界では、「折り目」は単なる線ではありません。そこには、美しく着るための知恵と、日本人が大切にしてきた美意識が込められているのです。

着物は、お仕立てが完成すると、まず「折り目」をつけます。この折り目が、その後の着物の畳み方の基本となります。

 

 

 

一見すると簡単な作業のように思えますが、実はとても繊細で重要な工程です。丈や幅をきちんと合わせ、左右のバランスを確認しながら、慎重に折り目をつけていきます。

もしここで折り方がずれてしまうと、美しく畳めなくなるだけでなく、不要な折りじわができてしまったり、着物の形そのものを崩してしまったりすることにもつながります。

反対に、正しい折り目がついた着物は、美しく畳むことができ、着用すると自然に身体へなじみ、着やすさにもつながっていきます。

長年着物を扱っていると、きれいに折り目のついた着物と、そうでない着物では、袖を通した時の着心地に違いがあることを実感します。

着物は平面の布でありながら、身体を包み込む立体的な衣服です。そのため、一つひとつの折り目や線が、着姿の美しさを大きく左右するのです。

また、着物のお仕立てには、「筋を通す」という大切な工程があります。

「筋を通す」という言葉も、日常では「道理を通す」「信念を貫く」といった意味で使われますが、もともとは布の縦糸と横糸をまっすぐに整え、布目を正しく通すことから生まれた言葉ともいわれています。

着物のお仕立てでは、この布目をきちんと整えて裁断することがとても重要です。

もし布目を無視して裁ってしまうと、寸法が狂ったり、着物全体が歪んだりする原因になります。着ているうちに裾が上がってきたり、衿元が決まりにくくなったりと、美しい着姿を保つことが難しくなってしまうのです。

見えない部分ではありますが、この「筋を通す」という丁寧な仕事があるからこそ、着物は長く美しく着続けることができます。

さらに、着物には「仕付け(しつけ)」という大切な工程があります。

仕付けとは、仕立て上がった着物の折り目がずれないように、仮の糸で留めておくことです。

この仕付けが掛かった状態で保管しておくことで、折り目や「キセ」と呼ばれる縫い代のふくらみが落ち着き、着物全体が美しい形に整っていきます。

初めて着物を手にされた方の中には、「なぜ糸が付いたままなのだろう」と不思議に思われる方もいらっしゃいますが、それは決して不要なものではありません。

そこには、仕立てをした人の「どうか美しく着ていただきたい」「少しでも良い状態で袖を通していただきたい」という願いが込められているのです。

「折り目正しく」「筋を通す」「仕付けを掛ける」。

どれも着物のお仕立てに欠かせない大切な工程ですが、改めて考えてみると、これらの言葉は私たちの生き方にも通じるように感じます。

姿勢を正し、礼儀を大切にすること。

自分の信念を持ち、筋を通して生きること。

そして、すぐには見えない部分にも丁寧に心を配ること。

それらは、日本人が長い年月をかけて育んできた美意識そのものではないでしょうか。

着物は単なる衣服ではありません。

一枚の着物には、布を織った人の思い、染めた人の技術、仕立てた人の真心、そして着る人を美しく見せたいという願いが込められています。

だからこそ、着物を畳むときも、袖を通すときも、自然と丁寧な気持ちになります。

一つひとつの所作を大切にし、ゆっくりと向き合う時間は、忙しい毎日の中で自分自身を整える時間にもなります。

着物の「折り目正しさ」は、単に形を整えるためのものではありません。

それは、人としての在り方や、物を大切にする心、美しく生きようとする気持ちを教えてくれる、日本の文化そのものなのです。

今日も着物に袖を通すとき、その折り目の一つひとつに込められた思いを感じながら、少しだけ背筋を伸ばしてみる。

その積み重ねが、私たちの日々の暮らしをより豊かでより丁寧なものへと導いてくれるのではないでしょうか。