見えない時間を信じること

着物着付け教室  麗和塾  内村圭です。

 

 

『前』を向くって、大切だなと思うこの頃です。

毎日を過ごしていると、何をやっても思うようにいかなかったり、頑張っているのに結果が出なかったりすることがあります。

「こんなに努力しているのに、どうして?」

「これだけやっているのに、何も変わらない……」

そんなふうに、気持ちが落ち込んでしまうこともあるでしょう。

けれど、そんなときこそ、少しだけ視点を変えてみることも必要なのかもしれません。

植物を育てることを考えてみます。

土に種をまいて、水をあげる。

太陽の光を浴びせ、毎日気にかけている。

それなのに、いつまで経っても芽が出ない。

そんな状態が続いたら、「もう育たないのでは?」と諦めたくなるかもしれません。

でも、土の中では何も起きていないのでしょうか。

いいえ。

見えていないだけで、種から根が伸び、少しずつ成長しているのかもしれません。

地上に芽が出る前に、まず根を張る。

根っこがしっかりしていなければ、植物は大きく育つことができません。

そう考えると、目に見える変化がない時間も、決して無駄ではないのだと思えます。

水を撒いても、すぐに芽が出ない。

だからといって、諦めない。

投げ出さない。

今は根を伸ばしている時期なのだと思って、もう少し待ってみる。

人生にも、そんな時間があるのではないでしょうか。

努力しているのに成果が見えないとき。

練習しているのに上達を実感できないとき。

何かを始めたものの、思うように進まないとき。

私たちはつい、「結果が出ない=自分には向いていない」と考えてしまいがちです。

けれど、実際にはその時間こそが、これから伸びていくための大切な土台をつくっているのかもしれません。

 

 

 

そして、もうひとつ大切だと思うのが、「知識」と「実践」は違うということです。

頭では分かっている。

本を読んで知識もある。

人から教えてもらった。

理屈も理解している。

それでも、実際にやってみると、思うようにはいかない。

これは、決して珍しいことではありません。

知識を持っていることと、それを自分の身体を使って実践できることは、別のものだからです。

そして、実践して初めて分かることがあります。

やってみて初めて気づくことがあります。

失敗して、修正して、もう一度やってみる。

その繰り返しの中で、知識が少しずつ自分自身の力へと変わっていくのだと思います。

これは、着物を着るための着付けにも通じることです。

着付けの手順を頭で覚えていても、実際に着物を着てみると、思うようにいかないことがあります。

「ここはもっと引いたほうがいい」

「帯の位置は少し違うかもしれない」

「衿合わせが思ったように決まらない」

最初は、ひとつひとつに戸惑うことでしょう。

けれど、実際に着物を着る回数を重ねることで、身体が少しずつ覚えていきます。

最初は頭で考えながら動かしていた手が、いつの間にか自然に動くようになる。

鏡を見なくても、なんとなく「ここが違う」と分かるようになる。

そうやって、知識が経験に変わり、経験が技術になっていくのです。

和裁も同じです。

寸法の理屈や仕立ての方法を知っているだけでは、すぐに美しい仕事ができるわけではありません。

実際に針を持ち、布に触れ、手を動かし、何度も経験する。

その中で、布の扱い方や身体に合わせた寸法の感覚など、教科書だけでは分からないものが身についていきます。

「知っている」から「できる」へ。

そして「できる」から「自信を持ってできる」へ。

そのためには、やはり実践が必要なのです。

だからこそ、せっかく身につけた知識や技術は、できるだけ使ってほしいと思います。

着付けを習ったのなら、実際に着物を着てみる。

着物を着られるようになったのなら、家の中だけでなく外へ出てみる。

帯結びを覚えたのなら、違う結び方にも挑戦してみる。

和裁を学んだのなら、実際の着物や布に触れてみる。

一度やってみてうまくいかなかったからといって、そこで終わりにしなくてもいいのです。

「やってみたから分かったこと」が、必ずあります。

そして、もうひとつ心に留めておきたいのが、**「機を逃さない」**ということです。

人生には、何かを始めるのにちょうどよいタイミングがあります。

「もう少し上手になってから」

「もう少し時間ができてから」

「もう少し自信がついてから」

そう思っているうちに、機会を逃してしまうことがあります。

もちろん、準備することは大切です。

けれど、完璧に準備が整うのを待っていたら、いつまでも始められないこともあります。

まず一歩踏み出してみる。

やりながら学ぶ。

必要なところを修正する。

そのほうが、結果的に早く成長できることもあります。

着物も、同じではないでしょうか。

「もう少し上手に着られるようになってから出掛けよう」

そう思っていると、なかなか着物を着る機会が増えません。

多少うまくいかなくても、まず着て出掛けてみる。

その経験が、次の自信につながります。

最初から完璧である必要はありません。

経験を積み重ねることで、自分なりの着こなしが少しずつ育っていくのです。

とはいえ、いつでも前向きでいられるわけではありません。

モチベーションが下がる日もあります。

何をやっても空回りしているように感じる日もあります。

努力が結果につながらず、「もうやめてしまおうかな」と思うこともあるでしょう。

でも、それは自分だけではありません。

誰にでも、そういう時期があります。

順調なときだけが成長ではありません。

立ち止まることも、迷うことも、うまくいかないことも、次のステップへ進むための大切な経験です。

そんなときに思い出したい言葉があります。

「花から始まる花はない」

美しく咲いている花だけを見ると、その花が最初から美しく咲いていたように感じます。

けれど、花が咲くまでには、種があり、根があり、芽が出て、茎が伸び、葉が育つという過程があります。

花になる前の時間が、必ずあるのです。

人の成長も同じなのではないでしょうか。

今、目に見える成果がなくても、その人の中では何かが育っている。

今はまだ芽が出ていなくても、根を張っている。

だから、「結果が出ないからダメ」と決めつけなくてもいいのです。

見えないところで育っているものを、自分自身が信じてあげる。

そして、少しずつでも前を向く。

ただし、「前を向く」ということは、何が何でも同じ方法を続けるという意味ではありません。

ときには、考え方を柔軟に変えてみることも必要です。

うまくいかないなら、やり方を変えてみる。

誰かの方法を参考にしてみる。

一度立ち止まって、自分の現在地を確認してみる。

目標はそのままでも、そこへ向かう道はひとつではありません。

柔軟に考えることで、思いがけない道が見つかることもあります。

大切なのは、前へ進むことだけではなく、「自分なりの前進」を続けることなのだと思います。

昨日より少しできるようになった。

以前より着物を着ることが楽しくなった。

帯結びが楽にできた。

自分に似合う着物が分かってきた。

そんな小さな変化も、立派な成長です。

植物が、毎日少しずつ根を伸ばすように。

私たちも、目に見えないところで少しずつ成長しています。

だから、焦らなくてもいい。

けれど、諦めない。

知識だけで終わらせず、実践する。

チャンスが来たら、一歩踏み出す。

うまくいかなければ、柔軟に方法を変える。

そして、時には立ち止まりながらも、また前を向く。

いつか振り返ったとき、「あの時、諦めなくてよかった」と思える日がきっとあります。

今はまだ花が咲いていなくても大丈夫。

花から始まる花はありません。

見えない土の中で根を張る時間があるからこそ、その先に美しい花が咲くのです。

着物も、技術も、人生も同じ。

すぐに結果が出なくても、その時間を大切にしながら、一歩ずつ進んでいきたいものです。

今日も焦らず、でも前を向いて。

いつか咲く花を楽しみにしながら、今できることをひとつずつ積み重ねていきましょう。