譲り受けた着物を美しく着こなすために大切なこと
着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
「着物を着てみようかな」と思うきっかけのひとつに、ご家族やご親族から譲り受けた着物の存在があります。お母様やお祖母様が大切にされていた着物を手にしたとき、その美しさや思い出に心を動かされる方も多いのではないでしょうか。眠っていた着物に再び袖を通し、新たな時間を重ねていけることは、とても素敵なことです。
しかし、譲り受けた着物を実際に着ようと思ったときには、まず確認しておきたい大切なポイントがあります。それが「サイズ」です。着物は洋服以上に寸法が着姿に影響しやすく、自分の体型に合っているかどうかで、着やすさも仕上がりの美しさも大きく変わってきます。

譲り受けた着物は、当然ながら元の持ち主の寸法で仕立てられています。そのため、まずは現在の自分のサイズに合うかどうかを確認することが大切です。特にチェックしていただきたいのは、「身丈」「裄」「身幅」の三つです。そして重要度としては、①身丈、②裄、③身幅の順になります。
まず「身丈」は、着物の長さのことです。おはしょりを作って着る一般的な着方では、身丈が足りないと美しく着付けることが難しくなります。目安としては、ご自身の身長のプラスマイナス五センチ程度であれば比較的着用しやすいと言われています。また、対丈で着る場合には、身長から二十八〜三十センチほど引いた長さが目安になります。
次に「裄」は、首の後ろから肩を通り、手首までの長さを指します。裄が短すぎると手首が大きく見え、逆に長すぎても全体のバランスが崩れてしまいます。ただ、この裄のお直しは比較的費用を抑えやすい場合があります。袖幅だけで調整できることもあれば、肩幅から出す必要がある場合もあり、その内容によって料金は異なりますが、三つの中では比較的手を加えやすい部分と言えるでしょう。
そして「身幅」です。身幅が合っていないと、前が開きやすくなったり、着崩れしやすくなったりします。ただし、着物の柄の配置によっては調整が難しいこともありますが、幅だけを直すことは可能です。柄行きを見ながら、無理のない範囲で調整を行うことになります。
一方で、最も大掛かりになるのが「身丈直し」です。身丈を直す場合には、衿や袖の一部を残して全体を解き、縫い直す必要があります。そのため、費用も時間もかかります。特に大切な着物であれば、「洗い張り」をして一度反物の状態に戻し、ご自身の寸法で新たに仕立て直す方法がおすすめです。
洗い張りとは、着物を解いて反物状に戻し、水洗いをして整える昔ながらの方法です。布地を一度きれいに整えてから仕立て直すため、着物本来の美しさを活かしながら、新たな一枚として蘇らせることができます。ただし、洗い張り代や仕立て代が必要になるため、費用面も含めて検討することが大切です。
また、サイズ確認と合わせて、シミや汚れの有無も忘れずに確認したいポイントです。表地だけでなく、裏地にもシミが出ている場合があります。長く箪笥にしまわれていた着物は、見た目には分からなくても湿気や経年による変色が起きていることもありますので、明るい場所で丁寧にチェックしてみてください。
譲り受けた着物は、もともと高価なものが多く、良質な生地や美しい染め、丁寧な仕立てが施されています。だからこそ、箪笥の奥に眠らせたままにするのではなく、ぜひ実際に袖を通して楽しんでいただきたいものです。誰かが大切にしてきた着物を、今度は自分が受け継ぎ、また次の世代へと繋いでいく――それは着物ならではの素敵な文化でもあります。
さらに、着物は少し寸法が違っていても、着付けの工夫によって着用できる場合があります。たとえば体重で言えば、元の持ち主の方とプラスマイナス五〜六キロ程度であれば、比較的無理なく着られることも多いです。着物は洋服ほど身体にぴったり合わせるものではないため、多少の違いであれば調整できる柔軟さがあります。
「譲り受けた着物だから、自分には合わないかもしれない」と最初から諦めてしまうのは、とてももったいないことです。まずはサイズを確認し、必要に応じてお直しを検討しながら、自分らしく着こなす方法を探してみてください。
着物には、単なる衣服以上の価値があります。そこには持ち主の思い出や歴史、そして日本の美意識が込められています。譲り受けた着物に袖を通すことは、その思いを受け継ぎ、自分自身の新しい物語を重ねていくことでもあるのです。
ぜひ、箪笥に眠る着物をもう一度見つめ直し、自分らしい着物時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。


