着物がもたらす美しい姿勢と心の変化
福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
「着物を着ると背筋が自然と伸びるように感じる」──そんな声を耳にすることがあります。実際に着物に袖を通すと、ふだんとは違う気持ちになり、すっと背中が伸び、心も引き締まるような感覚を覚える方も多いのではないでしょうか。着物は、身にまとうことで自身の内面までも整えてくれる、まさに“心の衣”でもあるのです。
着物を身につけると、自分の姿が人の目にどのように映るかを自然と意識するようになります。これは「見られている」という適度な緊張感がもたらす効果とも言えます。その緊張感が、姿勢や立ち居振る舞いを整えてくれるのです。あえて言えば、少し“自意識過剰”なくらいでちょうど良いのかもしれません。むしろその意識が、美しい所作へとつながっていくのです。
街中で着物姿の方とすれ違うと、つい目を引かれてしまいます。どんな装いをされているのだろう、どんな帯合わせなのだろうと興味が湧き、無意識に目で追ってしまうこともあります。もちろん、じろじろと見てしまうのは無作法ですが、目を惹く魅力がそこにあるということの裏返しとも言えるでしょう。
また、着物姿であるというだけで、その人が凛として見えるのは不思議なものです。年齢を重ねていく中で、外見にはどうしても変化が訪れます。肌のハリや体型の変化は避けられませんが、それとは別に、「風格」「所作」「佇まい」といった、経験や内面からにじみ出る魅力は、むしろ年齢とともに増していくものです。そして、それを引き出してくれるのが着物なのです。
着物には、自然と胸を張り、肩の力を抜いて背筋を伸ばすよう促してくれる力があります。それは、帯を締めることで重心が整い、姿勢が意識されるからかもしれません。また、長襦袢や襟元の整え方、袖の扱い方など、ひとつひとつの動作が丁寧になることも大きな要因でしょう。こうした日常とは違う動きのひとつひとつが、自分の心と身体に静かな緊張感と調和をもたらしてくれるのです。
「たかが姿勢、されど姿勢」。姿勢が美しいというだけで、その人の印象は大きく変わります。着物姿においてはなおさらで、背筋の通った立ち姿や、しなやかな歩き方は、遠目にも美しく映ります。姿勢のよさは、着物姿の魅力を何倍にも引き立ててくれる要素なのです。
自分では「背筋を伸ばしているつもり」でも、実際にはそうでないこともあります。だからこそ、意識的に姿勢を見直すきっかけとして、着物はとても良い役割を果たしてくれるのです。着物を着ることで、鏡を見る機会が自然と増えますし、所作や佇まいにも関心が向くようになります。結果として、自分自身を客観的に見つめる習慣が生まれるのです。
美しい姿勢は、自信の表れでもあり、心の在り方を映し出す鏡のようなものです。着物を通じてそのような意識を育んでいくことは、日常の過ごし方にも良い影響を与えてくれるでしょう。
着物は、ただ身にまとう衣服ではありません。その所作を通して、自身の在り方を見つめ、整え、育むためのひとつの“道”でもあります。背筋が自然と伸び、心が澄んでいく感覚は、着物を着る喜びのひとつです。そんな感覚を、より多くの方に味わっていただければと思います。姿勢が美しくなることで、着物がより似合い、さらに着物を好きになる──そんな素敵な循環が、日々の暮らしに彩りを添えてくれることでしょう。