着物時間を自分でつくるコツ
着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
着物を着る機会は、ただ待っているだけでは、なかなか増えていかないものです。「いつか着る機会があれば」「特別な予定が入ったら着よう」と思っているうちは、気がつけば月日だけが過ぎ、結局タンスの中で眠ったまま……ということも少なくありません。だからこそ私は、「着物を着る機会は待つものではなく、自分で探すもの」だと考えるようになりました。
着物を日常の中で楽しむために、私が日頃から意識していることは、とてもシンプルです。まずひとつ目は、「どこで何が行われているかを把握すること」です。美術館の展示、ギャラリーの企画展、百貨店の催事、地域のイベントやお茶会など、少しアンテナを張っているだけで、世の中には意外とたくさんの「お出かけのきっかけ」があります。以前は、そうした情報に目を向けることすらしていませんでしたが、「ここに着物で行ってみたら素敵かもしれない」と意識するようになってから、情報の見え方そのものが変わりました。

二つ目は、「着物で行く約束をすること」です。これはとても大切なポイントで、「いつか行こう」ではなく、「この日に着物で行こう」と具体的に約束をすることで、着物を着ることが現実の予定になります。一人で出かけるのも良いですが、友人や知人と「着物で行こうね」と約束することで、自然とモチベーションも高まりますし、キャンセルしにくくなるという効果もあります。約束があることで、「今日は洋服でいいかな」という気持ちに流されず、きちんと着物と向き合うきっかけが生まれるのです。
三つ目は、「着ていく着物を早めに準備すること」です。予定が決まったら、前日ではなく、できれば数日前から着物や帯、小物を揃えておきます。そうすることで、当日に慌てることがなくなり、「準備が大変だからやめよう」という気持ちも生まれにくくなります。着物を広げてコーディネートを考える時間そのものが、すでに楽しい「着物時間」でもあり、当日へのワクワク感を高めてくれます。
こうした習慣を続ける中で、私の中には自然と「自分の楽しみは自分で探す」という意識が根づいていきました。誰かに与えられるのを待つのではなく、自分から情報を取りに行き、自分から予定をつくり、自分のために時間を使う。その積み重ねによって、少しずつ着物を着る機会が増えていったのです。
不思議なことに、そうした姿勢で過ごしていると、周囲からも自然と情報が集まってくるようになります。「こんな展示があるけど、着物で行ったら素敵そうだよ」「今度こんなイベントがあるけど、一緒に行かない?」と声をかけてもらえることが増え、誘われる機会も多くなりました。自分が動き始めることで、同じ価値観を持つ人とのご縁がつながり、結果的に着物を着るチャンスがさらに広がっていくのです。
そして、着物で出かける当日に私が何より大切にしているのが、「時間に余裕を持って支度をすること」です。慌ただしい朝に無理やり着ようとすると、気持ちにも余裕がなくなり、着崩れしやすくなったり、「やっぱり洋服にすればよかった」と後悔してしまうこともあります。だからこそ、当日は少し早めに起きて、ゆっくりと身支度を整えます。鏡の前で帯を結び、衿元を整え、深呼吸をしながら「今日の自分」をつくっていく。その時間は、単なる準備ではなく、心を整える大切なひとときでもあります。
ここで大切なのは、「着ない理由を作らない」という意識です。「時間がないから」「準備が面倒だから」「今日は天気が悪いから」といった理由を挙げれば、着物を着ない選択はいくらでもできます。しかし、一度そうした理由に慣れてしまうと、次第に着物から遠ざかってしまい、「いつか着よう」が「結局着ない」に変わってしまうのです。だからこそ私は、できるだけ「着ない理由」よりも「着る工夫」を考えるようにしています。
着物を着ることは、特別な人だけのものではありません。特別な日を待つのではなく、日常の中に小さな特別を見つけること。その意識を持つだけで、着物はぐっと身近な存在になります。美術館に行く日、友人とお茶をする日、ちょっとした集まりに参加する日――どれも立派な「着物の出番」です。
「機会を逃さず楽しむために、アンテナを張る」。この姿勢を大切にしていると、日常の風景が少しずつ変わって見えてきます。街のイベント情報に目が留まったり、季節の行事に心が動いたり、「ここに着物で行ったら素敵だろうな」と想像するだけで、日々の暮らしが豊かに感じられるようになります。
そして最後に思うのは、「結果、良ければすべて善し」ということです。完璧な着姿でなくても、少し着崩れてしまっても、「今日は着物で出かけた」という事実そのものが、何よりの経験になります。その一歩一歩の積み重ねが自信となり、着物が特別な存在から「自然な日常」へと変わっていくのです。
着物を着る機会は、待っているだけではやってきません。けれど、自分から探し、自分でつくり出すことで、いくらでも広げることができます。着物時間を豊かにする鍵は、外の世界ではなく、自分自身の中にあります。だからこそ今日も私は、「次はどこに着物で行こうか」と、楽しみながらアンテナを張り続けているのです。

