ゆとりをもって着物を着ること

着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。

着物でお出かけしようと思っていたのに、うまく着付けができず、泣く泣く洋服に着替えた経験……皆さんにも一度はあるのではないでしょうか。
「いつもはすんなり着られるのに、今日に限って上手くいかない」──そんな日もありますよね。

襟元が決まらない、帯がゆるむ、時間が迫ってくる。
焦りと不安で、普段ならできることさえ手につかず、やがて「もういいや」と諦めてしまう。
そんな瞬間の悔しさや落胆、きっと多くの方が一度は経験しているものです。

けれど、そのつまずきさえも、着物との関係を深める大切なステップなので
「思い通りに着られなかった日」の経験を前向きに捉え、そこから自信をつけていくための考え方と工夫についてです。

■ 思い通りにいかない日もある

着物を着るという行為は、簡単なようでいて繊細な作業の連続です。
ひとつ帯がずれた、襟が浮いた……たったそれだけのことが気になり、いつの間にか時間ばかりが過ぎていく。
そんな中で、「もう無理、今日はやめよう」と判断することもあるかもしれません。

でもそれは、「着物をきれいに着たい」「失敗したくない」という真剣な気持ちがあるからこそ生まれる感情なのです。

失敗の裏には、向上心と理想がある。だからこそ、まずはその気持ちに「よく頑張ったね」と声をかけてあげてください。

■ 慌てず、ひとつずつ──“急がば回れ”の心で

うまくいかない日ほど、「手順を飛ばさず、ひとつずつ確認する」ことが大切です。
焦って進めると、気持ちも手元も乱れがちになります。

そんな時は、深呼吸をして落ち着き、手を止めて一度全体を見直してみましょう。
・長襦袢の衿元は整っているか
・裾線のバランスは大丈夫か
・伊達締めの位置はズレていないか

手順をなぞり直すことで、いつもの感覚が少しずつ戻ってきます。

慣れるまでは、時間に余裕を持って支度を始めることが最も重要です。
「いつも30分で着られるから」と油断せず、最初は倍の時間を見積もっておくと安心です。

■ 着物を着る日のための心構え

着物を着る日が決まったら、当日までにできることはたくさんあります。

◎ イメージトレーニングをしておく

着る手順や所作を、頭の中で何度もシミュレーションしておくことで、実際の着付けがスムーズになります。YouTubeや本で確認しておくのもおすすめです。

◎ 「着物で出かける」と自分と約束する

「うまく着られなかったら洋服にしよう」ではなく、「今日は絶対着物で出かける」と心に決めておくことで、行動にブレが出にくくなります。

◎ 諦めない気持ちでまず着てみる

“とにかく着てみる”という行動力が、コツを掴む近道です。失敗しても、「今日はここまでできた」と思うだけで、次につながる経験になります。

◎ 羽織やショールを上手に使う

多少襟元が気になっても、羽織やストールを羽織れば気にならなくなる場合も。
「きちんと着られなければ出かけられない」と思わず、工夫を楽しむ余裕を持ちましょう。

■ 着物の準備時間を“無駄”にしないために

せっかく早起きして支度を始めたのに、途中で断念して洋服に着替えてしまうと、「今までかけた時間が無駄だった」と感じてしまいがちです。
でも、たとえお出かけに間に合わなかったとしても、そこには貴重な経験と学びがあります。

帯がうまく結べなかった、衿が決まらなかった──その一つひとつの“気づき”が、次回の成功へのヒントになります。

諦めた瞬間に学びは止まってしまいます。
けれど、どんな結果でも「これも練習のうち」と前向きにとらえれば、それは確実にあなたの成長の一歩なのです。

■ 良かったところを見つける習慣を

着付けが思い通りにいかなかった日も、ぜひ「うまくいった部分」を探してみてください。

・今日は裾線がきれいに揃った
・半衿の出し方がバランスよかった
・帯の柄合わせがうまくいった

たったひとつでも良い点を見つけると、失敗の中にも光が見えてきます。
「良かった探し」を習慣にすることで、自信が育ち、次に挑戦する意欲へとつながっていきます。

着物でお出かけする日は、ただ支度を整えるだけでなく、心にも余白とゆとりをもつことが大切です。

予定のある日は、前日までに準備を済ませ、当日は静かに音楽でも流しながら、丁寧に一つひとつを仕上げていく。
そんな優雅な時間の積み重ねが、着物を「特別なもの」から「自分らしい日常」へと変えてくれます。

思い通りにいかない日も、慌てず、諦めず、楽しむ気持ちを忘れなければ、着物はきっとあなたの味方になってくれるはずです。

「今日はちょっと失敗しちゃったな」
そんな日も、着物と向き合った大切な一歩。
焦らず、でも立ち止まらず、一緒に少しずつ上達していきましょう。きっとその先には、着物で過ごす何気ない一日が、かけがえのない喜びへと変わっていることでしょう。