自分に寄り添う着物との出会い
着物着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。
着物を着るときに「なんだか着やすい」「自然に身体に馴染む」と感じることがあります。
その秘密は、実はサイズにあります。身丈・裄・身幅といった寸法が自分の体に合っている「マイサイズの着物」は、着付けがぐんと楽になり、仕上がりも驚くほど美しく整うのです。
マイサイズの着物がもたらす心地よさ
着物は、洋服のように伸縮性のある布ではありません。ですから、寸法のわずかな違いが着姿や着心地に大きく影響します。
身丈が長すぎるとおはしょりの処理がもたつき、短すぎると帯の位置が不自然になります。裄が短ければ手首が見えすぎ、長ければ袖がだらりと下がってしまう。身幅が合っていないと、衿元がずれてしまったり、腰回りがすっきり収まらなかったりします。

その点、自分の体に合わせて仕立てたマイサイズの着物は、着付けの際に余計な調整をする必要がありません。
背中心が自然にまっすぐ整い、衿合わせもスムーズ。裄で悩むこともなく、下前の処理もすっきり決まります。おはしょりの長さもほどよく整い、見た目にも美しいラインが生まれます。
まさに「着やすく、美しく、気持ちがよい」。
マイサイズの着物には、そんな理想的な着心地が備わっているのです。
リサイクル着物の魅力と難しさ
近年、リサイクルの着物は手頃な価格で手に入りやすくなり、多くの方が気軽に着物を楽しめるようになりました。アンティークの魅力や、昔の職人技が光る染めや織りに惹かれる人も少なくありません。
しかし、リサイクル着物の多くは、前の持ち主の体型に合わせて仕立てられています。
そのため、着丈や裄が合わず、思うように着こなせないこともあります。特に、着付け初心者の方にとっては、この“サイズの合わなさ”が大きな壁になることもあります。
着物は身体に巻きつけて着るため、多少の調整は可能です。けれども、慣れないうちは衿合わせや腰紐の位置を微妙に調整することが難しく、結果として「うまく着られない」「シワが寄る」「衿が浮く」といった悩みにつながりやすいのです。
ですから、着付けを始めたばかりの方には、まずマイサイズの着物をおすすめしたいのです。
自分に合った寸法の着物を着ることで、着付けの基本動作が正しく身につき、余分な苦労をせずに「着ることの楽しさ」を味わうことができます。
技術が身につくと、サイズの違いも味方にできる
もちろん、着付けの経験を重ねていくうちに、多少のサイズ違いは工夫次第でカバーできるようになります。
衿の抜き加減で裄を調整したり、腰紐の位置を変えて身丈を整えたり。着物は、着る人の技術と感性で自在に表情を変えることができる衣服です。
ですが、それができるのは「正しい着付けの感覚」が身についてからのこと。
一度マイサイズの着物で「正しい着方」「美しいバランス」を身体で覚えることが、後にリサイクル着物やアンティーク着物を楽しむときの基礎となります。
実際に、自分で着られるようになった方が、初めて誂えたマイサイズの着物を着たときに口をそろえて言うのが――
「着やすい!」
「身体にぴったり!」
「余計なシワができない!」
という感動の言葉です。
これは、寸法が合う心地よさと、自分の身体に馴染む安心感を実感した瞬間に生まれる言葉なのでしょう。
タンスの中に眠る“宝の山”
とはいえ、「初心者だから新しく誂えるのはちょっと…」と思う方もいらっしゃるでしょう。
そんな方にこそ、一度見直してほしいのが、タンスの中に眠る着物たちです。
お母様やお祖母様から譲り受けた着物、昔誂えたけれど袖を通していない着物――それらは、もしかすると“宝の山”かもしれません。
人の手に触れ、再び光を浴びることで、着物はまるで息を吹き返したかのように生き生きとします。
長いあいだ袖を通さずにしまい込んでおくと、どうしても生地が硬くなったり、折り癖がついたりしてしまいますが、風を通して広げてあげるだけでも、着物は嬉しそうに見えるものです。
まずは、タンスを開けて一枚ずつ広げてみましょう。
サイズが合うもの、少し手直しをすれば着られそうなものが見つかるかもしれません。
また、寸法が合わなくても、お仕立て直しや部分的な直しで再び活用できることもあります。
お手持ちの着物を見直すことの意味
お手持ちの着物を定期的に見直すことには、もうひとつ大切な意味があります。
それは、「着物を管理する力」が自然と身につくということです。
保管の仕方、たたみ方、虫干しのタイミング――着物を手に取りながら確認していくことで、どの着物が今の自分に合っているのか、次にどんな色柄を迎えたいか、といった感覚も磨かれていきます。
また、着物の状態をチェックしておくと、いざというときに慌てずに済みます。
「この着物は裄が少し短いから、次は少し長めに仕立てよう」「この帯は明るい色の小紋と合わせたい」――そんな具体的なイメージが生まれるのです。
そうして少しずつ、自分のライフスタイルに合った“着物ワードローブ”が整っていく過程こそ、着物と共に生きる楽しさの一部といえるでしょう。
着物と人、どちらも息づく関係を
着物は、人の手によって生まれ、人の手によって蘇るものです。
仕立て、着付け、手入れ――そのすべてに「人の手」が欠かせません。
だからこそ、袖を通すことは、着物に命を吹き込むような行為なのです。
長い年月を経てなお、美しい艶を残している絹も、人が触れ、着ることでさらに輝きを増します。
「着物が喜ぶ」という表現は、一見比喩のようでいて、実はとても真実を含んでいます。
久しぶりに袖を通した着物が、やわらかく体に馴染んでいく感覚――それは、着物が再び息を吹き返す瞬間なのかもしれません。
着物を着るということは、自分を丁寧に包み込む行為です。
マイサイズの着物は、その人の姿や所作を最も美しく引き立ててくれます。
初心者のうちは、自分に合った寸法の着物で着付けを学び、身体に感覚を覚えさせることが上達の近道。
そして、技術が身についたあとは、リサイクルやアンティークなど、さまざまな着物の世界を自由に楽しめるようになります。
タンスの奥に眠る着物を見直し、自分に寄り添う一枚を見つけてみましょう。
袖を通すたび、心も身体も自然と整い、着物がもたらす豊かさを感じられるはずです。
マイサイズの着物は、単なる「衣服」ではなく、「自分らしさ」と「心地よさ」を形にした一枚。
その一着と出会うことが、あなたの着物時間をより深く、幸せなものへと導いてくれることでしょう。


