着物は着てこそ輝くもの
着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。
「せっかく素敵な着物を誂えたのに、着る機会がないままタンスにしまったまま…」
「汚したくないから、もったいなくて袖を通せない…」
そんな声を、着物に関心のある方々から耳にすることが少なくありません。高価で大切にしたい気持ちはとてもよく分かります。しかし、その着物の本当の価値は、着てこそ輝くものなのです。
どれほど美しく仕立てられた着物であっても、長い間しまい込んでいるだけでは、その魅力は十分に発揮されません。着物は、飾って愛でるためのものではなく、「纏うことで人を美しく見せる」衣服です。丁寧に選び、お手入れし、大切にしている着物だからこそ、積極的に袖を通して楽しんでいただきたいのです。
高価な着物こそ「着る」ことで価値を活かす
「高かったから、汚れるのが怖いから」と、着ることをためらってしまうお気持ちは、多くの方が抱えている悩みです。しかし、視点を変えてみましょう。高価なものだからこそ、特別なときだけでなく、できるだけ多くの場面で着ることで、その価値を最大限に活かすことができるのではないでしょうか。
着物は洋服と違い、仕立てや生地の質、保管の工夫次第で何十年にもわたって着続けることができます。中には「三代にわたって着られる」と言われるほど、長寿命の衣服です。祖母の着物を母が受け継ぎ、さらに娘が着る。そんな温かな物語を紡いでくれるのも、着物ならではの魅力です。
また、着物は何度も着ることで、着る人自身の身体や所作に馴染んでいきます。回数を重ねるごとに自分らしい着こなしができるようになり、気負わず自然に着られるようになるのです。
「タンスの肥やし」にしない工夫
お気に入りの着物を、タンスの中で眠らせたままにしないためには、まず「着る機会」を自分からつくることが大切です。「特別な予定がないから着られない」と感じている方は、まずは日常のちょっとしたお出かけに着てみることから始めてはいかがでしょうか。
たとえば、近所のカフェでのランチ、気分転換の散歩、美術館や図書館へのお出かけなど、着物を楽しむきっかけは日常の中にいくらでもあります。「着物だから格式ばった場所へ行かねばならない」と考える必要はありません。お気に入りの小紋やウールの着物で、気軽に外出するだけでも十分に素敵な着物時間になります。
また、現代では着物をカジュアルに楽しむスタイルも広まっています。洋風のバッグや靴を合わせたり、ヘアスタイルを自由にアレンジしたりと、自分らしい着こなしを見つけていくことで、着物へのハードルもぐっと下がります。
「着たおす」ことで見えてくる世界
「着たおすくらいに着用してみませんか?」
これは決して大げさな表現ではありません。着物は回数を重ねるほど、着る楽しみが増し、生活そのものが豊かになっていきます。
繰り返し着ているうちに、帯の締め具合が自然とわかるようになり、季節や気分に合わせた小物使いも楽しめるようになります。「今日はこの帯揚げを合わせてみよう」「この半衿ならもっと華やかかしら」と、自分なりのコーディネートが広がっていく喜びを感じることができるでしょう。
そして、着物で過ごす時間が増えれば増えるほど、所作が洗練され、姿勢が整い、ふるまいが丁寧になります。着物に着られるのではなく、自分が着物を着こなしているという感覚が芽生えてくるのです。そうなると、着物を着ることが特別なことではなく、「自然な選択肢」として日常に溶け込むようになります。
着物は暮らしに喜びをもたらす
着物を着る日は、心が引き締まり、ちょっとしたお出かけでも気持ちが高まります。「今日は着物を着よう」と思うだけで、1日が少し特別に感じられる。そんな小さな高揚感が、暮らしに彩りを添えてくれます。
また、着物を着ていると、周囲の方々から「素敵ですね」と声をかけていただくことも多くなります。それが大きな励みとなり、自信へとつながることもあるでしょう。着物が持つ華やかさや品格は、周囲の人にも喜びを与える力があるのです。
さらに、着物をきっかけに人との出会いや交流が生まれることもあります。同じように着物を楽しむ仲間ができたり、着物を話題に会話が弾んだりと、新しい世界が広がっていく喜びを感じられるかもしれません。
着物ライフを楽しむために
着物を長く楽しむためには、日々のお手入れも大切です。着用後は風を通して湿気を取り、汚れがあれば早めに対応する。そうしたひと手間をかけることで、着物はいつまでも美しく保つことができます。そうして大切に扱いながら、気軽に何度も着ることで、着物は真に「生きた衣服」となります。
今、タンスの奥で眠っている着物がある方は、ぜひその一枚に袖を通してみてください。そして、「もったいないから着ない」のではなく、「大切だからこそ着る」という心構えで、着物を楽しんでみてください。着物が日常に根づくとき、暮らしそのものが少しずつ変わり、豊かさを感じる瞬間が増えていくことでしょう。
着物は、着てこそ価値が生まれます。
お気に入りの一枚をもっと身近に。もっと自由に。
「着たおす」ほど着物を楽しみ、心豊かな日々を育ててみませんか?