65%の人が着物を着たいと思っている
福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
街を歩いていて着物姿の方をお見かけする機会は、そう多くはありません。お祭りや特別な行事を除けば、日常の風景の中で着物を着ている方に出会うことは、ごく稀であると感じます。それだけ、現代において着物を着るということは、やや珍しいことになってしまっているのかもしれません。
以前、ある問屋さんで立ち話をしていたときのことです。そこでは、30代の会社員女性が着物生活を続けているという話題になりました。その方はフリーペーパーでも紹介されたそうで、いわゆる「着物で暮らす現代人」として取材されてました。けれども、それを耳にしたとき、私はふと違和感があり、日本人が日本の伝統衣装である着物を着ているというだけで、「珍しい」と言われ、話題になるという現実に、少し寂しさを感じました。
私自身も、外出時に着物を着ていると、時折視線を感じることがあります。バス停で立っているときなど、「見られているな」と思うと、「やはり着物姿は珍しいのかな」と思わずにはいられません。
私にとって着物は特別なものではなく、むしろ日常の一部でもあります。幼少のころを思い返すと、母は自宅でよく着物を着て過ごしていましたし、父も仕事から帰宅すると洋服を脱ぎ、着物に着替えて過ごしていました。その姿は、家という空間にふさわしい“くつろぎ着”として、着物がごく自然に暮らしに溶け込んでいた時代の名残だったのかもしれません。特に父の場合は、着物に着替えることで、仕事から家庭へと気持ちを切り替えるための、ひとつの儀式のようにも見えました。
私自身はといえば、どこかに出かける予定があるときに着物を選ぶことが多いですが、その際に心のスイッチが切り替わるという点では、父と似ているかもしれません。
さて、「現代において、実際に着物を着ている人の割合はどのくらいなのか」という点について、興味深い調査結果があります。2022年に、東京・京都・大阪において、それぞれ男女150名ずつ、合計300名を対象に行われた調査によると、日常的に着物を着ている人の割合は、わずか0.7%〜1.3%に留まっていたそうです。やはり、着物姿は“珍しい”と言わざるを得ない状況ではあります。
しかし、同調査によると、着物を「所有している」と回答した人は約7割にのぼり、さらに「着物を着てみたい」と答えた人は65%もいたという結果が出ています。この数字は、着物そのものへの関心が潜在的に高いことを示していて、着物を遠ざけているのは「関心のなさ」ではなく、「きっかけのなさ」や「着方がわからない」「着る場がない」といった実用面のハードルにあるのではないかと思われます。
アンケート回答の中には、 「着物を着ている人やSNSで見かけた着姿が素敵だった」 「入学式や卒業式、結婚式などで着物姿の人を見て感動した」 「普段から着物を着ている人を見かけると、自然と目を引かれる」
といった声が多く寄せられていました。着物姿に対しては、ほとんどの方が好意的な印象を抱いているようです。
特に最近では、SNSを通じて若い世代が着物に関心を持つことも増えており、日常に取り入れようとする動きも見られます。また、日本独自の文化である着物に対して、誇りを持ちたいという気持ちを抱く方も増えているのだと感じます。
こうした流れを見るにつけ、私は大いに希望を抱いています。着物は決して特別な場面だけのものではなく、日常を少しだけ丁寧に、そして豊かにする存在です。だからこそ、もっと気軽に、もっと自由に着物を楽しんでよいのだと思います。
街を歩けば自然と着物姿の人を見かける、そんな風景が当たり前になる日がくることを、心から願っています。それは、現代の私たちが日本の文化を大切にし、未来へと繋いでいこうとする意思のあらわれでもあるでしょう。着物をまとうことが、暮らしの中でほんの少しでも心を豊かにし、自分自身と向き合う時間となるのであれば、これほど素敵なことはありません。