着物との関わり方を考える

福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。

着物は不思議な魅力があります。それは単に布を身にまとうものではなく、着る人の心持ちや生き方、さらには場面や役割までも映し出すからです。着物を着る人によって、その「意味」や「役割」は実にさまざまに変化します。そしてまた、用途によって選ぶ着物や帯、小物までもが異なるのが、着物の奥深さであり、面白さでもあります。

たとえば、厳かな式典に参列する際には、格式ある訪問着や付け下げなど、その場にふさわしい装いが求められます。品格を大切にしたい場面では、落ち着いた色味や格調高い意匠を選ぶことが、その場への敬意を表す手段ともなるのです。

一方で、着物をお仕事の装いとして活用なさる方もいらっしゃいます。そのような場合には、スーツ感覚で着こなせる紬や小紋などを選ぶと、堅苦しさを感じさせずに、自然体で信頼感を与える印象を作ることができます。仕事の場での着物は、単に装いの一部ではなく、自身の在り方や信念を表現するツールでもあります。

また、社交の場においては「地味すぎず、派手すぎず」の絶妙なバランスが求められます。控えめながらも華やかさを感じさせる装いは、周囲への配慮と、自分自身の美意識の現れと言えるでしょう。お稽古事や観劇、お食事会といった和やかな集まりにおいても、着物はその場の空気をやわらかく包み込む力を持っています。

趣味の時間を楽しむ場面では、自由な発想で様々なコーディネートを試してみるのも素敵です。個性的な色や柄、時にはアンティークやリサイクルの着物を取り入れて、自分だけのスタイルを探す楽しみが広がります。心が動くままに、感性を表現できるのが、着物ならではの魅力でもあります。

もし譲り受けた大切な着物があれば、その思い出や背景に想いを馳せながら、時折袖を通してみるのも良いものです。人から受け継がれた着物には、時間の流れが織り込まれており、それを身につけることで懐かしく思い出されることもあるでしょう。単なる「モノ」ではなく、家族や文化の記憶をまとう感覚とでも言えるでしょう。

また、パーティーや華やかな催しでは、思い切って華やかな装いを楽しむのも一興です。金銀糸を使った帯や、大胆な意匠の着物など、普段ではなかなか着られない装いを存分に楽しめるのが、このような特別な場面です。

お稽古着としての着物であれば、着回しのしやすさが大切です。何度も袖を通すことで、着心地も馴染み、自然と動きやすくなっていくのが嬉しいところです。着物の基本動作が自然に身につくのも、このような実践の積み重ねがあってこそと言えるでしょう。

さらに、休日や余暇を着物で過ごすのなら、今の気分にぴったりの着物を選ぶことこそが、最も旬な装いになります。季節感や体調、気持ちの揺らぎに合わせて装いを選ぶことで、着物が日常の一部としてより自然なものとなっていきます。

このように、着物にはその場面ごとにふさわしい役割がありますが、最も大切なのは「自分はどんな場面で着物を着たいのか?」という問いを見つめ直すことかもしれません。自分のライフスタイルや理想の未来像を意識せずに、ただ漠然と着物を集めてしまうと、「持ってはいるけれど、着る機会がない」「毎回コーディネートに悩んでしまう」といったことにもなりかねません。

一目惚れして購入した着物があったとしましょう。その美しい着物を活かすために、自分の生活や行動範囲を少し見直してみる。たとえば、日常の外出を少し着物を増やしてみたり、着物で行けるイベントに参加してみたり――。そんなふうに、着物をきっかけに行動の幅を広げることができれば、人生そのものがより豊かなものへと変わっていくのではないでしょうか。

ときにはこんな言葉も耳にします。

「着物は選ぶものではない。着物が人を選ぶのだ。」

この言葉の意味は、長く着物に関わっていくほど、少しずつわかってくるように思います。出会った一枚の着物が、ある日ふと「今の自分にぴったり」と感じる瞬間が訪れる。あるいは、以前は似合わなかった着物が、年月を経てしっくりくるようになる。そんな経験を重ねながら、私たちは着物と共に歩み、成長していくのです。

着物の世界は奥深く、学び続ける限りその先に新たな楽しみがあります。そして、その積み重ねこそが、私たち自身の「足跡」となって、装いの中に刻まれていくのです。

自分自身がどんな装いを大切にしたいのか。どんな着物とこれから歩んでいきたいのか。そんな想いを抱きながら、今日も一枚の着物を手に取り、袖を通してみる――。その瞬間に、装いを通して描かれる「理想の未来の自分」が少しずつ現れてくるのかもしれません。