丁寧に着る時間が心を整える

着物着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

着物は洋服と比べると、着るまでの手間や時間がかかります。だからこそ、「ただ身にまとうだけでなく、美しく着たい」と思う気持ちが自然と芽生えるのだと思います。丁寧に着付けをし、鏡の前に立ち、帯の高さや衿の角度を確認する時間は、自分と向き合う貴重なひとときでもあります。

鏡に映る自分の姿には、その日の心と体の状態が表れるものです。元気な日はどこか晴れやかな雰囲気が漂い、疲れているときは姿勢や表情にもその影が少し滲みます。だからこそ、「今日は綺麗に着物を着ることができた」と感じられた日には、心がふわりと軽くなり、何か良いことが起こりそうな予感さえしてきます。その日一日の過ごし方にも、自然と明るさが生まれるのです。

また、人の印象に大きく影響を与える「第一印象」はとても大切です。心理学では『初頭効果』と呼ばれ、最初に受けた印象がその後長く記憶に残り、その人全体のイメージを左右するとされています。洋服のとき以上に、着物姿ではより強くその影響を感じる場面が多くあります。着物を着ると姿勢が整い、所作がゆっくりと丁寧になり、自然と品格が生まれます。美しく着物を身につけた姿で相手に向き合うことで、好印象を持たれやすくなるだけでなく、自分自身も凛とした気持ちでその場に立つことができるのです。

「身なりを整える」という行為には、外見の変化以上に、心に作用する力があります。手を抜かず、一つ一つの工程を大切にしながら着物を着ると、不思議と気分が前向きになり、自分を大切に扱っているという実感が湧いてきます。衿を合わせる所作、帯を締める所作、しわを整える指先の動き──それらすべてが、自分の内側を静かに整えてくれるようです。

着物を着る時間は、慌ただしい日常の中に生まれる小さな“丁寧さ”の積み重ねです。ひと手間かかるからこそ、その過程が心を豊かにし、完成した姿が自信と喜びを与えてくれるのです。丁寧に仕上げた着姿は、見た目を美しく整えるだけでなく、その人の佇まいそのものに落ち着きと上品さをもたらします。

「美しく着たい」という気持ちは、決して特別なものではなく、自分の毎日をより心地よく、より前向きに過ごすための自然な感情です。着物を着ることで得られる心の変化や、鏡に映る姿から感じる小さな達成感。そのすべてが、その日一日の彩りを豊かにし、自分自身の内面までも明るく照らしてくれます。

着物は手間がかかるからこそ、得られるものが大きい装いです。丁寧に着る時間を楽しみながら、自分を整えるひとときをぜひ大切にしてみてください。その積み重ねが、あなたの毎日をさらに美しく、穏やかにしてくれることでしょう。