計画的な着物との付き合い方

着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

着物に興味を持ち、着付けにも慣れてくると、自然とさまざまな種類の着物が欲しくなってくるものです。「あの色も素敵」「この柄も欲しい」と、心惹かれるままに次々と手に取ってしまう──そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。実は、それは誰もが通る「着物熱」の初期症状ともいえる時期です。

この時期は、着物の美しさや多様性に目を奪われる一方で、思いのままに購入を続けると、後で「失敗したかも」と感じることも出てきます。

「手当たり次第」ではなく、「計画的に」

着物に慣れはじめると、「もっと色々な着物を着てみたい!」という気持ちが湧いてくるのは自然なことです。リサイクルショップやオークションなどで、手頃な価格で手に入る着物が多いことも、収集欲をかき立てる要因のひとつです。

しかし、こうした衝動的な買い物には落とし穴があります。

  • なんとなく気に入って購入したけれど、コーディネートがうまくいかず、一度も袖を通さないままタンスの奥にしまわれている

  • 色や柄の好みが偏ってしまい、似たような着物ばかりが手元に増えてしまう

  • いざ着てみると、自分の雰囲気や体型に合っていないことに気づく

こうした事態は、多くの方が一度は通る道です。そして「どうせ安いから」と購入を正当化してしまうことで、着物が“使われないコレクション”になってしまうことも珍しくありません。


着物は「着てこそ」価値がある

着物は、飾るためのものでも、集めるだけのものでもありません。「着る」ことで初めて、着物本来の魅力が引き出され、私たち自身の表情や所作までも美しく見せてくれます。

ですから、着物を購入する際には、まず「どんな場面で、どんな自分を演出したいか」を明確にしておくことが大切です。

  • 友人との食事に、上品で柔らかい印象を与えるコーディネートをしたい

  • 美術館や観劇に出かけるときに、粋で洗練された装いを楽しみたい

  • カジュアルな街歩きに、季節感のある遊び心を取り入れたい

このように、目的やシチュエーションを具体的に想定したうえで着物を選ぶことで、手持ちのコーディネートともしっかり調和し、無駄のない買い物ができるようになります。


他人からの見え方にも意識を向ける

私たちはつい、自分の目線で「この色が好き」「この柄が可愛い」と選びがちですが、第三者の視点も取り入れることで、よりバランスの良い着物選びが可能になります。

たとえば、自分では「全然違う」と思って選んだ二枚の着物でも、他人から見れば「似た印象」と受け取られることもあります。同系色で少しトーンが違うだけ、柄のモチーフが少し変わっただけ──そのような微細な違いは、意外にも伝わりにくいものです。

もちろん、こだわりは大切にしたいところですが、「外からどう見えるか」にも意識を向けることで、着姿全体の印象がより洗練されたものになります。


自分の「偏り」に気づくことも重要

かく言う筆者も、かつては無意識のうちに同じような色ばかりを集めてしまい、気づけば手持ちの着物がすべて紫系だったという経験があります。好きな色に自然と惹かれるのは人間として当然のことですが、気づかぬうちに偏りが生まれてしまうと、コーディネートの幅が狭まり、着回しの楽しさも半減してしまいます。

そこでおすすめなのが、「自分の着物ワードローブを客観的に整理する」ことです。

  • どの色が多いのか

  • どの柄が似通っているか

  • 帯との相性やコーディネートのしやすさはどうか

こうした点を見直し、今後の購入計画に活かすことで、無駄を減らし、実用性の高い着物選びができるようになります。


着物計画を立てて、賢く揃える

着物選びにおいて大切なのは、「とりあえず買う」のではなく、「これからの着物ライフをどう楽しみたいか」というビジョンを持つことです。

  • 春のお出かけには、淡い色調の小紋を

  • 秋には、こっくりとした色合いの紬を

  • フォーマルな席には、品格ある訪問着を一枚

このように、季節や用途、場面ごとに必要な着物を想定し、それに基づいて着物や帯、小物を揃えていくのが理想的です。

その過程で、手持ちのアイテムとの組み合わせも常に意識するようにしましょう。既にある帯に合う着物を探す、逆にお気に入りの着物に合う帯を見つける──そんなふうに「使える範囲」を広げながらコーディネートを考えると、より無駄のない、活用度の高い着物ワードローブが実現します。


着物との長いお付き合いのために

着物は一度購入すれば、長く愛用できるものです。そのぶん、計画性とバランスを持って揃えることが、心から着物ライフを楽しむためには欠かせません。

「着物は着てこそ価値がある」という言葉のとおり、選ぶ楽しさだけでなく、着る楽しさ、出かける喜び、人との出会いといった体験こそが、着物の本当の魅力です。

これからも、自分の好みや個性を大切にしながら、少し先を見据えた着物選びをしていきましょう。そうすれば、着物はあなたの人生をより彩り豊かにし、かけがえのない時間を与えてくれる存在になるはずです。