心地よく着物を着るために必要なこと
着物着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。
着物を心地よく、そして美しく着るために欠かせないもの──それは「自分の身体に合った寸法」です。着物は洋服と異なり、ゆとりをもたせて着る文化があるため、多少のサイズ違いであれば工夫次第で調整できるという利点があります。しかし、その“少しの差”が積み重なると、着姿が落ち着かなかったり、着付けのたびに気になる部分が出てきたりして、せっかくの着物時間がストレスになってしまうこともあります。
とくにお気に入りで頻繁に袖を通す着物の場合や、どうしても気になる箇所がある場合には、思い切ってお直しを施すことで着心地が格段に良くなります。着物は、仕立て直しによって何度でも新しい命を吹き込むことができる衣類です。この柔軟性こそ、長く大切に着る文化が育まれてきた理由のひとつでもあります。

たとえば、裄(ゆき)が短い場合には、袖幅や肩幅から布を出すことで長さを調整できます。また、袖丈を長くしたい場合や裾の擦り切れが気になる場合も、適切なお直しを行えば十分に対応が可能です。これらは比較的手軽にできるお直しであり、思い出の詰まった一枚をまた美しく着られるようになるための大切なメンテナンスです。
ただし、身丈(みたけ)も一緒に変えたい場合は、もう少し大掛かりな工程が必要になります。このような場合に行われるのが「洗い張り」です。洗い張りとは、着物を一度ほどいて反物の状態に戻し、水洗いしたのち新たに仕立て直す伝統的な方法です。反物に戻すことで生地がすっきりと整い、新しい寸法に合わせて仕立て直すことが可能になります。着物を“反物の姿”に戻すことで、まるで新しく生まれ変わったような一枚になるのです。
この「洗い張りからの仕立て直し」は、手間も技術も必要ですが、その分得られる満足感はとても大きいものです。まさに着物の持つ再生の文化と言えるでしょう。一度仕立てたら終わりではなく、持ち主の身体やライフスタイルに合わせて何度でも調整しながら着続けられる──これは洋服にはなかなかできない、日本の衣文化の素晴らしさです。
仕立てやお直しの現場では、限られた布地をどのように配置し、どの部分に持ってくるかを考える工程があります。これを「やりくり」と呼びますが、まさにパズルを組み立てるような感覚です。一つひとつの布の長さや幅を計算し、足りない部分をどこから補うか、柄の出方をどう整えるかなど、職人の経験と感性が存分に活かされる作業です。
この“やりくり”がぴったり合ったときの喜びは、作り手にとっても大きなものです。「うまく収まった」という達成感とともに、着物が再び命を吹き返し、また新しい持ち主のもとで活躍する未来を思い描くことができます。
着物は、時代を超えて受け継がれ、人の手によって支えられてきた文化そのものです。だからこそ、大切な一枚を長く美しく着続けるためには、寸法を見直し、お直しによって整えることがとても重要なのです。身体に合った着物は見た目の美しさだけでなく、着心地にも大きく影響します。袖を通した瞬間のしっくり感、歩いたときの裾さばきの美しさ、帯を締めたときの安定感──それらはすべて、寸法が合っていることから生まれる心地よさです。
来年からまた新しい気持ちで着物生活を楽しみたいと思われる方にこそ、自分に合った寸法を見直すことをおすすめいたします。タンスの中の着物を「今の自分に合う一枚」に変えることで、着物をまとう時間そのものがより豊かで快適になります。
どうぞ、ご自身の着物を見直す時間をつくり、より心地よく、より美しく着こなせるように整えてみてください。お直しをすることで、きっとその一枚は、これからのあなたの着物生活に新しい彩りを添えてくれることでしょう。

