着物が着る人を選ぶこと

着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。

 

仕立ての仕事をしていると、時折依頼されたお仕立てものの背景が見えることがあります。祖母から譲られた着物、義母から頂いた着物、形見分けで貰った着物など、その着物が持つ物語や思いを想像することがよくあります。これは妄想の域を出るものではありませんが、長い時間の流れを感じ、新たな持ち主に着てもらう姿を思い描くことは、私にとって楽しい時間でもあります。

 

 

着物や帯が自ら「この人に着て欲しい!」という念を発しているのかもしれないと思うこともあります。美しい着物や帯は、人々に喜ばれ、その着物を着ることによって新たな「目的」が生まれることもあります。時にはその目的を実現するために、自ら動き出すことも必要です。

例えば、あるお客様が持ち込まれた着物は、その背景を知ると、その着物がもつ価値や意味がより一層深まります。祖母から譲られた着物であれば、その着物には家族の歴史や絆が込められているかもしれません。義母から頂いた着物であれば、家族間の結びつきや感謝の気持ちが込められていることも考えられます。形見分けで貰った着物であれば、大切な人の思い出や愛情がその一枚に詰まっていることでしょう。

そのような着物を仕立てる際には、その背景や思いに寄り添いながら、一針一針丁寧に仕立てを楽しんでいます。着物を仕立てるという作業は、単なる技術のみならず、心の交流や繋がりを感じることができる素晴らしい機会でもあります。

また、着物や帯が持つ魅力や価値は、そのまま新たな目的を生み出すことができることもあります。美しい着物や帯を見た人が、着ることで特別な場面を彩りたい、または自分自身をより美しく見せたいという思いを抱くことがあります。そのような思いを受け止め、着物や帯を仕立てることで、その人の願いを叶える一助となることができます。

私にとって、着物を仕立てる作業は単なる仕事以上のものです。それは、一枚の着物が持つ物語や思いを感じ取り、新たな目的や意味を見出す素晴らしい体験であり、貴重な時間でもあります。着物が人々に喜びや幸せを届け、それが私の喜びでもあるのです。