髪型ひとつで変わる着物美人

着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

着物姿の美しさを左右する要素のひとつに、「髪型」があります。実はこの髪型こそが、着物姿全体の印象を大きく変える“仕上げの要”なのです。洋服とは異なり、着物は着付けや小物の準備など、手間と時間をかけて装う特別な衣服。せっかく手をかけて着物を身にまとうのなら、その装いにふさわしい髪型にも、もうひと手間をかけてみる価値があります。

髪型をきちんと整えると、まるで額縁に美しい絵を収めるように、顔立ちや着物の色柄が一層引き立ちます。これを「額縁効果」と呼びますが、この効果によって着姿全体がぐんと洗練され、品格と統一感が生まれるのです。きちんとまとめた髪は、着物の上質さを際立たせ、見る人に「丁寧に生きる人」という印象を与えてくれます。

ところが、「和髪なんて自分ではできない」「美容院に行かないと無理」と思い込んでいる方がとても多いのも現実です。特にショートヘアの方の中には、「髪が短いから無理」と諦めてしまう人も少なくありません。しかし実は、ショートヘアでも立派に“和髪風”のスタイルを作ることができるのです。しかも、やり方さえ知ってしまえば意外と簡単。長い髪をまとめるよりも短い髪の方が扱いやすく、むしろ時短で整えられるという利点もあります。つまり、「髪が短いからできない」ではなく、「短いからこそやってみる価値がある」のです。

実際、私の教室にもショートヘアで着物を楽しむ方が多くいらっしゃいます。なかでも印象的だったのが、受講生のMさんの変化です。Mさんは、着物を仕事に活かしたいという思いで教室に入られ、着付けやコーディネートの基礎をしっかりと学んでこられました。ちょうど一通りの技術を身につけ、自信がついてきたころ、勤務先の事情で年内いっぱいで退職することが決まり、気持ちが沈んでしまっていたのです。

そんなタイミングで行ったのが「和髪講座」でした。ショートヘアのMさんは最初、「自分には無理かも」と不安そうでしたが、講座の中で基本の形を作っていくうちに表情がどんどん変わっていきました。仕上がった瞬間、鏡の前で何度も角度を変えながら笑顔で確認され、「わあ、こんなに変わるんですね!」と感動の声。講座後もしばらく鏡の前から離れず、嬉しそうに髪を撫でていらっしゃいました。

そして帰り際に、「明日から早速、着物で仕事に行きます!」と、晴れやかな笑顔で宣言されたのです。髪型を整えることで、心の中に再び前向きな気持ちが灯ったのが伝わりました。見た目の変化はもちろんのこと、心の変化にもつながる――それが髪型の持つ不思議な力なのだと、改めて感じた瞬間でした。

和髪というと、昔ながらの結い上げ髪や専門的な技術を想像してしまいがちですが、現代の和髪はもっと自由で軽やかです。トップに少し高さを出したり、毛先を内巻きにしてまとめたりするだけでも、着物とのバランスがぐっと良くなります。ポイントは、首筋をすっきりと見せ、えり足を美しく整えること。そうすることで、着物の衣紋(えもん)の抜き加減がより映え、後ろ姿にも凛とした美しさが生まれます。

また、ショートヘアの方におすすめなのは、髪をふんわりと立ち上げて動きをつけるスタイル。ワックスやピンを少し使うだけで、和装に似合う落ち着いた雰囲気を作ることができます。洋服のときにはカジュアルに見える髪型も、着物に合わせて整えるだけで、途端に上品で華やかな印象になるのです。

髪型を整えるということは、単に外見を美しく見せるためだけではありません。自分自身を丁寧に扱うという「心の姿勢」にもつながります。忙しい日々の中で、わずかな時間でも鏡に向かい、自分の手で整える。その時間が、心を落ち着かせ、着物を纏う喜びを一層深めてくれるのです。

着物は、ただ着るだけでなく、「整える」ことで完成します。帯の位置、襟元の抜き加減、そして髪型。これらが調和してこそ、真の「美しい着姿」が生まれます。髪型を変えることで、自分の中の新しい魅力に気づき、自信が生まれ、自然と笑顔も増える――その積み重ねが、あなた自身の美しさを育てていくのです。

せっかく着物を着るのなら、その美しさを最大限に引き出してみましょう。少しの工夫で、印象は驚くほど変わります。鏡の前に立ち、自分らしい和髪を整えたとき、きっとその瞬間に心も晴れやかになるはずです。

髪型は、着物姿の“仕上げ”であり、“格上げ”の鍵。どんな長さの髪でも工夫次第で美しく整えられます。手をかけた分だけ、姿も心も満たされる――そんなひと手間を楽しみながら、自分だけの「和の美」を育てていきましょう。