日常にすっと馴染む“大人シックな着物”の楽しみ方
着物着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。
着物は特別な場で着るもの、あるいは華やかで目を引くもの、という印象をお持ちの方は少なくありません。特に、「着物を着ると目立ってしまいそうで落ち着かない」と感じる方にとっては、華やかな柄や鮮やかな色合いがハードルに思えることもあるでしょう。しかし、着物には日常に自然と馴染む“控えめで品のある装い”も多く存在します。まずは、心に負担の少ない一歩から始めてみませんか。
大正・昭和の頃に仕立てられた着物には、今見ても惹かれる大胆な柄や鮮やかな色味が多く残されています。くっきりとした青、目を奪うような緑、高い彩度のピンクなど、その力強いデザインはとても魅力的ですが、日常の中で着るには少し勇気がいるのも事実です。

そこで、着物を着てみたいけれど視線が気になる……という方におすすめしたいのが、「普段着向きの落ち着いた着物」を選ぶことです。洋服でも“くすみカラー”が人気のように、着物にも現代の生活に馴染む、控えめで穏やかな色合いがあります。ベージュ、グレー、紺、くすみブルー、渋みのある赤紫などは、街の中でも自然に溶け込み、着ていて安心感を与えてくれます。
柄についても、いわゆる古典柄だけでなく、幾何学模様や細かな小紋柄など、主張しすぎないデザインがおすすめです。これらは視覚的にも落ち着いて見え、日常のお出かけにもすんなり馴染みます。控えめで上品な装いは、周囲の景色とも調和し、自分自身の気持ちも整えてくれるでしょう。
とはいえ、急に「着物生活を始めよう!」と意気込む必要はありません。まずは着物に触れる時間を少しずつ増やすことが大切です。最初の一歩としておすすめなのは、ホテルでのランチ、料亭でのお食事、観劇、美術館巡り、庭園散策といった、少しだけ背筋が伸びるような場所を選ぶことです。こうした場では着物姿の方を見かけることも多く、自然に溶け込みやすいため、安心して楽しむことができます。
さらに、初めのうちは一人で出かけるよりも、複数人で着物を楽しむのがおすすめです。着物仲間と一緒に出かけると心細さもなく、互いにコーディネートを褒め合ったり、歩き方や所作の気づきを共有したりと、着物時間がより豊かになります。回数を重ねるごとに気持ちに余裕が生まれ、「もっとこうしてみたい」という前向きな変化が自然に訪れるものです。
慣れてきたら、徐々に色味を加えてみたり、柄のバリエーションを広げてみたり、行動範囲を少し伸ばしてみるのも良いでしょう。無理のない範囲で着物に触れる頻度を増やすことで、着物が特別ではなく“当たり前の日常服”へと変わっていきます。そして、気づけば視線が気になるどころか、「着物を着ている自分が好き」と思えるようになるのです。
実際、私自身も着物を着始めたころは、外に出るたびに少し緊張し、人の視線が気になっていました。しかし、回数を重ねるほどに気持ちがほどけ、次第に「着物を着ている自分」が愛おしく感じられるようになりました。いまでは、その気持ちが着物を楽しむ原動力になっています。
もしもあなたが「着物に取り入れたい何か」を感じているなら、それはすでに新しい一歩を踏み出す準備が整っている証です。まずは日常に自然と馴染む“大人シックな着物”を選び、心地よい範囲で着物のある時間を楽しみ始めてみましょう。
視線を気にしていた過去の自分が、きっと微笑むように言うはずです──
「思い切ってよかったね」と。


