着物がつなぐ嬉しいご縁

着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

 

着物を着るとで得られる喜びや利点は、想像以上にたくさんあります。洋服から着物へと袖を通すだけで、自然と背筋が伸び、気持ちが引き締まる。帯を締める動作のひとつひとつに心を整える力があり、まるで自分の中に静かな軸が通るような感覚を覚えるのです。

現代の暮らしは、忙しさに追われ、つい心の余裕をなくしてしまいがちです。そんな中で、着物に着替えるのは、日常の中に“丁寧な時間”を取り戻すひとつのきっかけになります。洋服を着るときには感じにくい「所作の美しさ」や「姿勢の大切さ」を、着物は自然に意識させてくれます。帯を締める瞬間、鏡の前で衿を整える瞬間、その一つひとつの所作に自分自身を見つめ直す時間が流れます。

着物を着ると、姿勢だけでなく、心まで凛と引き締まるように感じます。まさに「背筋が伸びる」という言葉のとおり、気持ちが整い、日々の生活にも張りが出ます。普段の暮らしの中で、着物を着る日を“特別な日”と位置づけることで、自然とオンとオフの切り替えができるようになります。

仕事や家事に追われて過ぎていく毎日でも、着物を着ると心のスイッチが入ります。見た目にも、気分的にも「今日は少し丁寧に生きよう」と思えるのです。自分の中の時間の流れが穏やかに変わっていくような感覚。それは、着物という衣が持つ不思議な力なのだと思います。

――――――

3年前のちょうど今ごろ、義母の創作展が開催されました。型染めの半衿を出展していた義母の作品を、少しでも多くの方に知っていただければと思い、私は数日間、着物姿でご案内をさせていただきました。会場では多くの方とお話をしながら、着物ならではの美しい時間を過ごしました。

すると、後日、義母のもとへ一人のお客様が訪ねて来られたのです。その方は、「お嫁さん(私)に着てほしい」と言って、ご自身の着物や帯、帯締めなどを持参してくださいました。まさかの出来事に驚きと感激で胸がいっぱいになりました。

「着物を着る人にこそ使ってもらいたい」との温かいお言葉。すでに身内から多くの着物を譲り受けていた私は、「これからはもう頂く機会はないだろう」と思っていた矢先のことでした。それだけに、そのお気持ちが何より嬉しく、心からありがたく頂戴いたしました。

着物を着ていたからこそ生まれたご縁。そこには、装いを通じて心が通い合う、不思議な力があるのだと改めて感じました。着物姿は、ただ美しいだけではなく、その人の生き方や丁寧な心の在り方を映し出すもの。見る人の心にも温かく響くものがあるのだと、身をもって実感した出来事でした。

――――――

着物を着るのは、自分の内面を整え、周囲との関わりをより豊かにしていくための“心の習慣”のように思うことがあります。着物には「人と人をつなぐ力」「心を穏やかにする力」「時間をゆっくりと流す力」があると思うからです。

そしてもう一つ、着物を通じて感じたのは「タンスの肥やしは宝の山」ということ。誰かが大切にしてきた一枚の着物には、その人の想いや物語が込められています。時を経て自分のもとにやって来た着物を、再び袖を通して活かすことで、その想いを未来へとつないでいくことができるのです。

今、家のタンスに眠っている着物があれば、それは決して古びたものではありません。むしろ、次の持ち主によって新たな命を吹き込まれることを待っている“宝物”です。少し手を加えるだけで、現代の暮らしにも十分に馴染み、日常の装いとして楽しむことができます。

たとえば、帯や小物を変えるだけで印象はがらりと変わります。半日だけ、あるいは数時間だけ着物で過ごすこともできます。ハードルを上げすぎず、自分のペースで取り入れてみることが大切です。そうすることで、着物はもっと身近な存在になり、心を豊かにしてくれる時間が増えていきます。

――――――

着物を着ることで生まれるご縁、整う心、そして暮らしの中に流れる穏やかな時間。これらはどれも、洋服ではなかなか得られない特別な価値です。着物を通じて自分を大切にする時間を持つことで、日常の一瞬一瞬がより深く味わいのあるものへと変わっていきます。

着物を着るという選択は、決して特別な日のためだけではありません。「今日を丁寧に過ごしたい」「自分の気持ちを整えたい」——そんな思いが湧いたときにこそ、袖を通してみてください。帯を締めた瞬間、きっと心の中に静かな自信と優しい光が灯るはずです。

着物は、私たちの暮らしの中で、過去と現在、そして未来をつなぐ橋のような存在です。その一枚に込められた想いを受け取り、自分らしく着こなすこと。それは、自分自身を慈しみ、日々を豊かに生きるための小さな一歩なのです。

タンスの奥に眠る着物たちは、あなたの手によって再び輝くことを待っています。どうぞその扉を開けて、もう一度袖を通してみてください。そこにはきっと、新しい出会いとご縁、そして自分自身の中に眠っていた美しさとの再会が待っていることでしょう。