自分という花を咲かせるために

着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

 

植物を育てるとき、私たちは種を蒔くだけでは終わりませんよね。芽が出ることを楽しみにしながら、水をあげ、日光に当て、成長する様子を見守ります。毎日少しずつ手をかけ、その植物に必要なものを与えることで、やがて芽が伸び、美しい花を咲かせてくれます。

考えてみれば、私たち人間も同じではないでしょうか。

私たちも、自分という一粒の種を持っています。そして、その種を育て、自分らしい花を咲かせるためには、ときどき意識して自分自身に「水」をあげ、「日光」に当ててあげることが必要なのだと思います。

毎日の生活は、思っている以上に忙しいものです。

仕事があり、家事があり、家族のことがあり、人によっては子育てや介護など、自分以外の誰かのために時間を使うことも多いでしょう。やらなければならないことを一つ終えても、また次の用事が待っている。気がつけば、一日があっという間に過ぎ、「今日、自分のために何かできただろうか」と振り返る間もなく、また次の日を迎える。

そんな毎日を繰り返していると、知らず知らずのうちに心も身体も疲れてしまいます。

 

 

 

 

「まだ大丈夫」

「今は忙しいから仕方がない」

「自分のことは後回しでいい」

そのように思い続けているうちに、自分自身への水やりを忘れてしまうことがあります。

植物に水をあげなければ、すぐには変化が見えなくても、少しずつ元気を失っていきます。日光が必要な植物であれば、光のない場所に置き続けることで、健やかに育つことは難しくなります。

私たちも同じように、自分の心を満たすものを長い間与えずにいると、気づかないうちに心が乾いてしまうことがあるのではないでしょうか。

だからこそ、ときには意識して、自分自身に水をあげることが大切です。

もちろん、その「水」が何なのかは、人によって違います。

旅行に出掛けることが心を満たしてくれる方もいらっしゃるでしょう。好きな音楽を聴く時間、美味しいものをゆっくり味わう時間、映画や舞台を楽しむ時間、読書をする時間。美しい景色を見ることや、友人とおしゃべりをすること、一人で静かに過ごすことが、その人にとっての水やりになる場合もあります。

何か新しいことを学ぶ時間が必要な方もいらっしゃるでしょう。

以前から「やってみたい」と思っていたことを始める。興味がありながらも、「いつか時間ができたら」と後回しにしていたことに挑戦してみる。最初はうまくできなくても、少しずつ続けていく。

その時間が、自分の中に眠っていた新しい芽を育ててくれるかもしれません。

大切なのは、「やりたい」と思っている気持ちを、いつまでも後回しにしないことだと思います。

もちろん、現実には時間にもお金にも限りがあります。「今すぐ大きなことを始めるのは難しい」と感じることもあるでしょう。しかし、自分を喜ばせるためには、必ずしも大きな時間や特別な出来事が必要なわけではありません。

ほんの十分でもよいのです。

好きな飲み物をゆっくり飲む。お気に入りの音楽を一曲だけ聴く。少し遠回りをして好きな景色を見る。好きな香りを楽しむ。朝、少しだけ早く起きて、誰にも邪魔されない時間を持つ。

そんな小さな「心地よい」を暮らしの中に取り入れることも、立派な自分への水やりです。

「自分のために時間を使うのは贅沢ではないだろうか」

そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。

特に、いつも家族や周囲の人のことを優先してきた方ほど、自分のことを後回しにすることに慣れてしまっている場合があります。しかし、自分を大切にすることは、決してわがままなことではありません。

むしろ、自分の心が満たされているからこそ、人にも優しくなれることがあります。

疲れ切って心に余裕がないときには、ちょっとした言葉にも傷ついたり、誰かに優しくしたいと思っていても、その余力が残っていなかったりするものです。

けれど、自分自身が心地よく、嬉しい気持ちで過ごせていると、不思議と周囲を見る目にも余裕が生まれます。

自分の花を咲かせることに集中していたら、いつの間にか周りの人も笑顔になっていた。

そんなことがあったら、とても素敵ではないでしょうか。

また、自分への水やりとは、いつも楽しいことだけをするという意味ではないと思います。

人生には、思うようにいかないこともあります。

一生懸命頑張ったのに結果が出なかった。挑戦したけれど失敗してしまった。期待していたことが叶わなかった。そんな日もあるでしょう。

そのようなとき、「どうしてできなかったのだろう」と何度も自分を責めてしまうことがあります。

「あのとき、もっと頑張ればよかった」

「私が悪かったのかもしれない」

「やっぱり自分には無理だった」

しかし、うまくいかなかったからといって、自分の価値まで否定する必要はありません。

失敗することもあります。思ったような結果にならないこともあります。それでも、一歩を踏み出したこと、挑戦したこと、その経験そのものが無駄になるわけではありません。

そんなときは、無理に元気になろうとしなくてもよいのだと思います。

落ち込みたいときには、落ち込んでもよいのです。

「こんなことで落ち込んではいけない」と、自分の気持ちにまで蓋をしなくても大丈夫です。悲しいときは悲しい。悔しいときは悔しい。その気持ちを否定せず、ときにはどっぷりと落ち込む時間があってもよいのではないでしょうか。

心にも、休む時間が必要です。

十分に涙を流し、気持ちを整理し、少しずつ心が落ち着いてきたら、また自分に水をあげればよいのです。

美味しいものを食べる。好きな人に話を聞いてもらう。ゆっくり眠る。好きな場所へ行く。もう一度、小さな楽しみを見つける。

そして、また少し元気が戻ってきたときに、次の一歩を考えればよいのだと思います。

自分が喜ぶことを続けることは、今の自分を満たすだけではありません。

今日、自分にあげた一杯の水が、明日すぐに花になるとは限りません。しかし、水をあげ続け、日光を浴び、少しずつ根を伸ばしていくことで、未来のある日、美しい花を咲かせることがあります。

「やりたいな」と思っていたことを始めること。

途中で諦めずに、もう一度挑戦してみること。

以前から気になっていた場所へ出掛けてみること。

「今さら」と思わず、新しい学びを始めること。

その一つひとつが、自分という種に水をあげることにつながっていくのだと思います。

大きな夢に向かって一気に進めなくても大丈夫です。毎日が忙しく、十分な時間を確保できないのであれば、その中でほんの少しでも、自分が心地よいと感じる時間を作ってみる。

家族のための時間も大切。

仕事のための時間も大切。

けれど、それと同じように、自分自身のための時間も大切です。

「時間ができたら自分のことをしよう」ではなく、ほんの少しでも「自分の時間を先に確保する」という意識を持つことで、毎日の感じ方が変わってくるかもしれません。

自分を喜ばせること。

自分を大切に扱うこと。

自分が心地よくいられる環境をつくること。

それは、自分を甘やかすこととは違います。これから先も、自分らしく元気に生きていくために必要な栄養を、自分自身に与えることなのだと思います。

そして私にとって、その「心地よい時間」の一つが、着物の時間です。

着物を着ることは、私にとって単に服を着替えることではありません。

今日はどの着物を着ようかと考える時間。

帯を選び、小物を合わせる時間。

鏡の前で少しずつ身支度を整え、着物姿になっていく時間。

そして、着物を着て出掛ける楽しみ。

その一つひとつが、私にとって心に水をあげる時間になっています。

忙しい毎日の中でも、着物に触れる時間があると、気持ちが少し整うように感じます。「好きなことをしている」という時間は、それだけで心に栄養を与えてくれるのかもしれません。

人によっては、それが着物ではないでしょう。

お花を育てることかもしれません。

料理かもしれません。

スポーツかもしれません。

旅行かもしれません。

芸術を楽しむことかもしれません。

何でもよいのです。

大切なのは、「自分にとって何が水になるのか」を知ること。そして、それを忘れずに自分へ与えてあげることです。

毎日、周りのために頑張っているからこそ、ときには自分自身にも目を向けてみてください。

あなたが蒔いた種は、あなたにしか育てることができません。

誰かが代わりに水をあげてくれることもあるかもしれませんが、自分が何を望み、何を心地よいと感じ、どんな花を咲かせたいのかを一番よく知っているのは、自分自身です。

どうか、自分への水やりを忘れないでください。

やりたいことを後回しにしすぎず、好きなこと、嬉しくなること、心が満たされることを、少しずつ暮らしの中に取り入れてみる。

うまくいかない日があっても、自分を責めすぎない。

落ち込みたいときには、心が落ち着くまでゆっくり休む。

そして、また少し元気になったら、自分のために新しい水をあげる。

そんな小さな積み重ねが、未来の自分を育てていくのだと思います。

今日すぐに大きな花が咲かなくても大丈夫です。

今はまだ土の中で根を伸ばしている時期かもしれません。目には見えなくても、あなたが自分を大切にし、好きなことを続け、少しずつ挑戦していけば、その時間は決して無駄にはならないでしょう。

そしていつか、振り返ったときに気づくのです。

「あのとき、自分を大切にしてよかった」

「あのとき、諦めずに続けてよかった」

「少しずつでも、自分に水をあげてきてよかった」と。

自分という花は、誰かと比べる必要はありません。

早く咲く花もあれば、ゆっくり時間をかけて咲く花もあります。大切なのは、自分の花をどのように咲かせていきたいのか、自分自身を見失わずに育てていくことです。

今日も、明日も、自分に少しだけ水をあげる。

心地よい時間を持つ。

自分が喜ぶことをする。

その小さな習慣が、未来のあなたを少しずつ育て、いつかあなたらしい美しい花を咲かせてくれることでしょう。