着物の“好き”と“似合う”の違いを知ることから始める
福岡着物着付け教室 麗和塾 内村圭です。
私たちは日々、数多くの「選択」をしながら暮らしています。食べるもの、過ごす場所、身にまとう服――その中で「自分が好きなもの」を選ぶことは、生活に彩りを与える大切な行為です。しかし、好きなものと「自分に似合うもの」は必ずしも一致するとは限りません。これは洋服に限らず、着物においてもよくあることです。
たとえば、「この色が好きだから」「この柄に一目惚れしたから」と選んだ着物をいざ着てみると、なぜかしっくりこない。鏡の前で違和感を覚えたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そうした経験を重ねるうちに、私たちは「自分に似合うものを見つける」ことの大切さに気づくようになります。
では、「自分に似合う着物」を見つけるには、どうすれば良いのでしょうか。
その第一歩は、“自分を客観的に見る視点”を持つことです。「似合う」というのは、ただの主観ではなく、「その人と調和しているかどうか」が基準になります。雰囲気や体型、肌や髪の色なども大きな要素です。全体として違和感なく馴染んでいるかが、「似合っている」と感じさせる秘訣なのです。
このとき役立つのが「写真」です。鏡に映った自分は、どこか主観が入ってしまいがちですが、写真は瞬間を切り取ることで、忖度のない「等身大の自分」を映してくれます。
実際に着物を着た姿を写真に収め、
・自分の思っているイメージと比べる
・コーディネートを少しずつ変えて試してみる
・帯や小物の組み合わせで印象がどう変わるかを見る
といったことを繰り返していくうちに、似合うもの、そうでないものが自然と見えてくるようになります。
ここで大切なのは、「似合うものを絞り込むこと=制限されること」ではないということです。むしろ、「自分に似合う軸」が定まることで、着物選びが楽になり、バリエーションはぐんと広がります。着物の色や柄に加えて、帯や小物の組み合わせによって何通りものコーディネートを楽しめるようになるのです。
一方で、あまり似合っていない着物を身に着けていると、その人本来の魅力が引き出されないどころか、場合によってはマイナスの印象を与えてしまうこともあります。これはとてももったいないことです。
着物は、その人をより美しく、印象深く見せてくれる素晴らしい衣装です。「自分にはどんな着物が似合うのか?」「どんな風に見られたいのか?」を考えることは、ただ単に装いを整える以上に、自分自身と向き合う機会でもあります。
そしてもうひとつ大切なのは、着物を通して「自分はどうなりたいか」「どんな人生を楽しみたいか」といった、“着物を着る目的や目標”を明確にすることです。
・特別な行事で品良く見せたい
・趣味として日常に取り入れたい
・仕事や人前に立つ際の装いとして活かしたい
目的が明確になると、必要な着物の種類や色柄、小物のテイストなども自然と絞れてきます。
「似合う着物」も、「自分らしい着物」も、最初からすべてが分かるわけではありません。経験を重ね、試行錯誤しながら、自分なりの“着物スタイル”を築いていくものです。
大切なのは、「気分良く、印象良く」着ること。自分自身が心地よく、気持ちが明るくなる装いは、見る人の印象にも自然と良い影響を与えます。自分を美しく魅せることは、誰かの目を楽しませることにもつながっていきます。
着物の世界は奥深く、だからこそ探究しがいがあります。
“自分らしさ”を大切にしながら、“似合う装い”を見つけて、着物という日本の美しい文化をもっと身近に、もっと自由に楽しみたいですね。