自分らしさと着物

福岡着物着付け教室  麗和塾  内村圭です。

現在は仕事としても、また日常生活の一部としても着物を楽しんでいる私ですが、最初からそうだったわけではありません。20代の頃の私は「必要なときにだけ着物を着る」という程度で、日常はほとんど洋服でした。特別な場面、たとえば結婚式やお茶会などに限って袖を通すだけで、普段着として着物をまとうことはほとんどありませんでした。

その頃の私にとって、洋服は「周りに溶け込むためのもの」で、特に華やかさを求めることもなく、個性を強く出すこともなく、安心感を優先して無難なものを選んでいたのです。誰かに強く印象づけられるよりは、風景の一部のように埋もれていたい。そうした選択をしていたことに、不安や不満はありませんでしたし、それはそれで心地よい時間でもありました。

しかし、どこかで心の奥に「もっと自分を表現したい」という思いが芽生えていました。いわば“変身願望”のようなものです。人と同じではない、自分だけの色や居場所、自分を示す何かが欲しかったのだと思います。

着物を日常的に着るようになったのは、まさにこの「自分らしさを求める気持ち」がきっかけでした。小さな勇気を出して一歩を踏み出したことが、結果的に今の私の仕事や暮らしのスタイルを形づくる大きな原動力になったのです。あのときの選択がなければ、今の私は存在していなかったでしょう。

 着物が教えてくれた自分らしさ

着物を着るようになってから、私自身の内面も少しずつ変わっていきました。洋服を着ていた頃には「周りに合わせること」が安心でしたが、着物はそうではありません。装いそのものに個性が宿り、帯や小物の選び方ひとつで印象が大きく変わります。

最初は「目立ってしまうのでは」と不安に思うこともありました。しかし次第に「これは私の選んだ着物、私の装い」と受け止められるようになり、やがてそこに誇りや喜びを感じるようになりました。着物は、単なる衣服を超えて「自分らしさを引き出してくれる存在」になっていったのです。

現代の生活は、仕事、家事、育児とやるべきことに追われる日々です。自分のための時間を取ることが難しいと感じる方も多いでしょう。私自身も同じように、時間に追われて過ごす日々が続いていました。

しかし、そんな中でも「今日は着物を着てみよう」と思い立ち、袖を通すだけで不思議と心が整うことがあります。お気に入りの着物を身にまとい、帯を結び、姿見の前で深呼吸する。ほんのわずかな時間でも、自分を満たすことができると、疲れがふっと軽くなり、日常に向き合う力が湧いてくるのです。

着物を着ることは、私にとって小さなご褒美であり、リフレッシュの方法です。その瞬間の満足感が心を潤し、日々の忙しさを和らげてくれています。

着物には、ただ自分自身を満たすだけでなく、周りの人の心をも和ませる力があると感じます。着物姿で人と会うと、相手から自然に笑顔がこぼれたり、「素敵ですね」と声をかけてもらえたりすることが増えますし着物は人との距離を近づけ、温かい会話を生み出す不思議な力を持っているのです。

自分自身が幸せを感じながら着物を着ていると、その気持ちが自然と周りにも伝わり、相手にも心地よさを届けることができます。つまり着物は、自分も周囲も幸せにしてくれる「魔法」のような存在なのです。

20代の頃は「必要なときに着る特別な衣服」だった着物が、今では「日常を彩る自分らしさの象徴」になりました。洋服のときには得られなかった自己表現や変身願望の実現が、着物を通して叶えられたのです。

そして、忙しい日常の中でほんの少しでも自分を満足させる時間を持つことが、生活全体を豊かにしてくれることに気づきました。着物はそのきっかけを与えてくれる存在であり、自分を大切にするための方法のひとつです。

着物を着る勇気を持ったあの瞬間が、今の私をつくりあげました。そしてこれからも、着物は私に新しい発見や出会いを運んできてくれるでしょう。

着物の魔法は、自分自身を変え、そして周りの人の心までも明るくしてくれます。だからこそ私は、これからも着物を通して「自分らしさ」を大切にし続けたいと思います。