着物でお出かけする時間の整え方

着物着付け教室福岡  麗和塾  内村 圭です。

着物姿で出かけていると、道ゆく方やお店の方などから思いがけず声をかけていただくことがあります。「素敵ですね」「いいわねえ」などの温かい言葉をいただくと、こちらまで気持ちがふわりと明るくなり、着物を着て良かったと心から思える瞬間です。そして、その言葉に続いて質問をいただくことも少なくありません。

なかでも最も多く寄せられるのは、「ご自身で着ているのですか?」という質問です。これには毎回、「はい、自分で着ています」とお答えするのですが、すると決まって次に返ってくるのが、「どれくらい時間がかかるのですか?」という問い。多くの方が、着物を自分で着るという行為に対して「時間がかかる」「大変そう」というイメージをお持ちなのだと感じます。

確かに、慣れないうちは着付けに時間も気力も必要ですし、洋服とは違う工程に戸惑うこともあるでしょう。しかし、日常的に着物にふれていると、自分なりの段取りが自然と身についていくものです。

私の場合、着物・帯・小物をあらかじめ揃えておき、準備が整った状態で着付けに取りかかれば、おおよそ15分ほどで仕上がります。もちろん、この15分という時間は「時短」にこだわっているわけではなく、出かける時間から逆算して、無理なく整えられるよう流れを組んでいる結果としてのものです。

たとえば、和髪を結う → 化粧をする → 着付けをする、という順序をあらかじめ決めておきます。そのうえで、それぞれに必要な時間をおおまかに把握し、全体が過不足なく収まれば十分。これ以上短くしようとは特に考えていません。大切なのは、慌てず落ち着いて仕上げられること、そして着物を着る時間そのものを心地よく味わえることだと思うからです。

とはいえ、準備というものはときに予定通りに進まない日もあります。思ったより髪がまとまらなかったり、帯がしっくり決まらなかったり……。そんな予想外の出来事も考慮して、私は必ず「プラス15分」の余裕を持たせています。このたった15分が、仕上がりにゆとりを生み、心の落ち着きにもつながる大切なクッションになるのです。

時間に追われると、動作が雑になり、気持ちまで焦ってしまいます。着物は特に、ひとつひとつの動作が丁寧であるほど美しく整うもの。だからこそ、心の余白をつくる時間管理は、実は着付けそのものと同じくらい大切なのだと感じています。

着物で外出する時間を気持ちよく迎えるためには、まず「自分はどれくらいの時間があれば安心して仕度できるのか」を知ることが第一歩です。これを把握するだけで、着物でのお出かけがぐっと身近になり、心の負担も減るはずです。

そして何より、着物を着る時間は本来、心が整う豊かな時間です。慌ただしく準備するのではなく、季節や場に思いを馳せながら、自分をゆっくりと整えていく。「装う」という行為に向き合えるひとときこそが、着物の楽しさそのものであり、魅力でもあります。

焦らず、慌てず、ゆったりと。
時間の流れごと味わうような気持ちで、これからも着物でのお出かけを楽しんでいきたいですね。