着物が連れていってくれる、特別な時間

着物着付け教室福岡  麗和塾  内村圭です。

着物をまとってさまざまな場所へ出かけることは私にとって大きな喜びですが、その中でも特に心惹かれる場所があります。それは、ホテルのラウンジで過ごすひとときです。しっとりと落ち着いた空間で、美しい所作を意識しながらお茶をいただく時間は、日常では味わえない心の満足感をもたらしてくれます。

若かった頃は、こうしたラグジュアリーな空間に対して「贅沢すぎるのではないか」「緊張してしまう」と感じ、あえて近づかないようにしていた時期もありました。敷居が高いと感じていたこともあり、自分には縁遠い場所だと思っていたのです。しかし、経験を重ね、心が成熟していくにつれて気づいたことがあります。それは、自分のお金の許す範囲で、少しだけ背伸びをして非日常の空間に足を踏み入れることが、心の伸びしろを広げてくれるということです。

ホテルのラウンジでのお茶代は、確かにいつもの二倍、三倍になることもあります。しかし、その金額以上の価値がその空間に存在しています。磨き上げられたテーブルや椅子、こだわり抜かれた調度品の美しさ、そこに集う人々の品の良さ……。目に映るもの、耳に届くもの、漂う空気のすべてが、日常とは違う刺激を与えてくれます。人は、近くにいる人の影響を無意識のうちに受けるといわれますが、まさにその通りで、美しい空間や魅力的な人々に触れる時間は、自分の理想へ近づくための大切な機会にもなります。

お茶室も同じです。質の高い空間には、日常の喧騒から離れた独特の静けさと、心を整えてくれる特別な時間が流れています。私にとって、ホテルのラウンジもお茶室も、着物で過ごすことでさらにその魅力が際立ちます。着物を着ている時間、着物でお茶をいただく時間は、私の心を豊かにし、自分と向き合う贅沢なひとときです。

着物を楽しむうえで、私が特に大切にしているのは「自分がどうしたいか」という想いです。行きたいと思ったとき、やってみたいと思ったとき、その気持ちは熱いうちに行動に移すことが大切です。ためらっているうちに、せっかく芽生えた気持ちが冷めてしまうこともありますし、慣れた日常に戻ってしまうこともあるからです。

着物は、日常と非日常を切り替えるための素敵なアイテムでもあります。普段とは違う装いをまとうことで心が改まり、佇まいが変わり、過ごす時間の質も変化していきます。「今日は少し特別な自分になりたい」と思う日に、着物はその想いをそっと後押ししてくれるのです。

気づけば、今年も残りわずかとなりました。年の瀬が近づくと、どうしても慌ただしさが増し、気持ちが落ち着かなくなることもあるでしょう。しかし、そんなときこそ、自分を心地よく満たす時間を意識的につくることが大切です。来年もまた、自分を楽しませる時間を積極的に取り入れ、心豊かに過ごしたいと思っています。

着物とともに過ごす時間は、単なるおしゃれ以上のものです。それは、自分を大切にするためのひとときであり、心の余白をつくる時間であり、理想の自分に近づくための小さな冒険でもあります。ホテルのラウンジでの特別な時間も、お茶室での静謐なひとときも、すべてが人生をより美しく彩り、日常をより深く味わうための大切なステップなのです。これからも、着物が連れていってくれる特別な時間を楽しみながら、自分自身の世界を広げていきたいと思います。