好きだから着る、それが理由
着物着付け教室福岡 麗和塾 内村圭です。
現代の日本において、日常的に着物を着る人はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
ある調査によると、20代から40代の女性で、日常生活の中に着物を取り入れている人は、わずか1.1%から1.2%という結果が出ています。この数字は決して多いとは言えず、現代において着物を普段着として身にまとう人が少数派であることを示しています。
しかしながら、同じ調査の中で、50代の女性に注目すると、この割合が4.4%まで上昇していることがわかります。年齢を重ねた世代の女性の中には、日常的に着物を楽しむ方が着実に存在しているのです。
また、50代以上の女性のうち、実に23.3%が「習い事の際に着物を着る」と回答しています。茶道や華道、書道といった日本の伝統文化に親しむ場面では、着物が自然と選ばれることが多く、それが着用のきっかけとなっているようです。伝統文化と共にある暮らしの中で、着物の魅力や着心地に触れることで、次第に日常でも着物を取り入れるようになる――そんな流れが生まれているのでしょう。
習い事を通じて着物に親しみを持つようになった方々は、そこからさらに一歩踏み出して、着物姿での外出や、友人との集まり、イベントへの参加などを楽しむようになります。誰かと一緒に着物を着て出かけることは、気後れしがちな最初の一歩を軽やかにしてくれるものです。楽しさが共有され、体験が広がることで、「特別なもの」として捉えられていた着物が、次第に「身近なもの」へと変化していくのです。
また、50代から60代にかけての女性は、人生の経験を重ねてきた深みと落ち着きを持ち合わせています。華やかな柄の着物も、渋みのある落ち着いた色味の着物も、どちらも無理なく自分のものとして着こなすことができる世代ではないでしょうか。まさにこの年代だからこそ、幅広いスタイルの着物を自在に楽しむことができるのです。
一般的に「着物は特別な日に着るもの」「格式ばった場で着るもの」といった印象を持たれがちですが、それだけにとどまらず、「日常着」としての着物も、確かに存在しています。普段から着物を着るということに対して、「なぜ?」と問われたとき、明確な理由が必要だと感じてしまう方もいるかもしれません。でも、こう答えてよいのです――「好きだから」。
着物を着るのに、大義名分や合理的な理由は不要です。着物が好きで、自分にとって心地よいと感じるから着る。それだけで充分です。誰かの視線や世間の常識に縛られず、自分の感性に素直になることで、着物は日常の中に溶け込み、豊かさをもたらしてくれます。
もちろん、着物を着慣れない方にとっては、最初はハードルが高く感じられるかもしれません。洋服と異なり、着方にも手間がかかりますし、動きにくいのではないかという不安もあるでしょう。しかし、それらの壁を越えてなお、着物には言葉にできない魅力があります。身にまとうことで、自然と背筋が伸び、気持ちが引き締まり、所作まで美しくなるような感覚。それはまさに、着物ならではの特別な力なのです。
着物を着ることを「遠い存在」と思っている方にこそ、お伝えしたいことがあります。それは、「理由を探すより、まず一度着てみてほしい」ということです。特別なイベントでなくても、ほんの少しのお出かけや、気の合う友人とのお茶の時間、季節の花を見に行くひとときなど、ちょっとした日常の中に、着物を取り入れてみてください。
一度その心地よさを知れば、「もっと着てみたい」「また着たい」と思うようになるかもしれません。そこから、あなたにとっての着物の楽しみ方が始まっていくのです。
着物を日常に取り入れることは、特別な人だけに許されたことではありません。むしろ、自分らしく生きるすべての人に開かれた、自由な表現のひとつです。堅苦しく考える必要はなく、ただ「着てみたい」という気持ちに従って動いてみることが、豊かな暮らしへの第一歩になります。
自分らしい着物の楽しみ方を見つけることで、これまで気づかなかった新たな魅力や出会いが、きっとあなたの毎日を彩ってくれることでしょう。着物は、年齢や時代に関係なく、誰にでも寄り添ってくれる日本の美。その美しさを、どうぞあなたらしいかたちで楽しんでみてください。